サヨは歴史神が住んでいると言われている歴史書店に向かう。
坂道にできたオシャレなイタリアンレストラン。地面を平らにするためか、道路より一段下に入り口がある。
イタリアンレストランには入らず、サヨは道路の下の壁へと向かった。壁になぜか階段があり、サヨはためらうことなく階段を降りていく。
階段を降りた先に引き戸があり、サヨはため息をつきつつ、扉を開けた。
「いらっしゃいませ~」
ゆるい声かけで近づいて来たのはワイシャツに袴姿の和洋が合わさった格好をしている青年。
大正ロマンな雰囲気。
部屋の内装もそんな感じだ。
「ここ、歴史書店で、あんた、ムスビって神?」
サヨが尋ねると、青年はにこやかに笑った。
「ムスビだよ。あ~、俺、本のことよくわかんないから、自分で買いたい歴史書、選んでね」
「はい? そんな歴史書店員いる?」
「い、いないよね~、ははは。俺、興味ないんだよ、歴史書」
「ちょ、店長は?」
お気楽なムスビにあきれつつ、サヨは店長のナオを探す。
「あ~、ナオさんは……たぶん、この辺で……」
ムスビは机の上の歴史書をてきとうにどかした。歴史書を積み上げ作ったらしいベッドに袴姿の少女がだらしなく寝ていた。
「寝てます……。はい、すみません……」
「……やる気ねぇんかい……。店長も歴史書が興味ないわけ? どうなってんの、この店……」
「まあ、てきとうに営業中……ははは」
ムスビが笑い、サヨは頭を抱えた。
「起こして、今すぐ。大変なことになった」
「あ~、時神がなんかおかしくなってるね。君は再生の時神かあ」
「……」
サヨはムスビの発言に眉を寄せた。
「ねぇ、あんた達さ、あたしらの歴史、どんだけ管理してんの? あたしらにとっての重大な記憶をあんたらがブロックしてない?」
サヨの言葉にムスビの笑顔が消えた。
「そんなこと、してないぜ。時神の対応は我々がしている……。そのうち、時神の現象はなくなるさ。彼らは人間時代に戻っただけだ。ルナが時空を歪ませたことで、アマノミナカヌシを宿す現人神(あらひとがみ)も人間時代の幼少期に戻り、暴走してる。あんたや、更夜は子供時代に戻ることはないよ。更夜は死んでから神になり、あんたはこないだ神になったわけだ。これは神力が出てくる前に戻るっていう、時神特有の人間時代に体と記憶が、ルナの力により戻っただけ。心配しないで、そのうち直すから」
サヨは訝しげにムスビを見据えた。
「あんたらさ、どこまであたしらを管理してるわけ?」
「気にしなくていいよ。俺達は君達を守っているだけだ」
ムスビの言葉にサヨは唸る。
「情報開示はしないのね」
「関係ある奴が来ないとできない」
「関係ある奴って誰?」
「君ではないから安心してくれ」
「あっそ」
サヨが相手をしている神はプラズマと同等神力、プラズマの同期の神だ。彼もプラズマ同様に神力を出してサヨを押さえつけようとはしてこない。
ただ、落ち着いていて、情報の引き出しは固い。
「あんたさ、西の剣王軍だよね?」
「そうだね」
「今回、望月ルナに罰はいく?」
「東は動くかもね。剣王は傍観している。今のところな。時神は人間時代があるため、人間の歴史管理しているヒメちゃんや、図書館にいる天記神(あめのしるしのかみ)……俺達の主とか、深く関わっている。今、皆で戻している最中だ。テンキさんはワイズ軍だから、テンキさんとこに行ったら? ルナちゃんに関しては」
「テンキさんって誰?」
「ああ、天記神(あめのしるしのかみ)のあだ名だよ」
ムスビが何も話さなそうだったので、サヨは天記神のところへ向かうことにした。
「天記神って、どうやって会うの?」
「弐の世界から行くか、壱にある図書館から霊的空間に入るかだね。サヨちゃんは知らないかもだけどね、北に所属している歴史神もいるんだよ。ルナちゃんは北所属だから、北が色々判断するかも」
ムスビは付け加えると、サヨをまっすぐ見た。
「時空の歪みに関しては、時空神がなんとかするから君は情報共有だけでいいと思うよ。時神は一番厄介で一番複雑だ」
「あんたらも所属が固まってないし、厄介。なんで歴史神はバラバラに所属してるわけ?」
「……そういうもんだよ」
ムスビの発言にサヨは質問をやめ、引き戸を再び開けた。
「もう、いいや。子供になった彼らは戻るわけね」
「うん。なんとかするから、大丈夫。心配しないで過ごして。いずれ戻るからね」
「……わかった」
サヨはムスビに背を向け、扉を閉めた。
……怪しい。
壱の守護をしているワイズと剣王。様々な神を使い、元に戻すことはするだろう。
だが、プラズマが思い出しかけていた記憶はワイズや剣王にとって嫌な記憶らしい。
情報操作をされ、あの記憶をなくされるかもしれない。
「……なんとかしないと」
サヨは階段をのぼりながら、更夜へ連絡を入れた。
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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」
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