更夜は時神達の家に入るなり、ルナを鋭く呼んだ。
「ルナっ!」
「ああ、おじいちゃん」
ルナはふてくされながら笑う。
「何があったんだ」
ルナの近くで倒れているリカを見て、更夜はルナを睨み付けた。
「また、現世で力を使ったのか! 悪い子だ! もういい加減に……」
「おじいちゃんはルナが嫌いなんだ! だからルナを叩くんだ!」
更夜もルナも余裕のある話し合いはできなさそうだった。特に更夜はいつもの雰囲気がなく、かなり感情的で荒い。
「ルナはね、時間を操れる。おじいちゃんを従わせることもできる。だから、ルナのがえらいんだよ?」
ルナの発言に、更夜は自分の言葉が全く伝わっていなかったのかと疑った。難しい部分は説明しなかったが、理解できるように話したつもりだった。
同時にルナが理解しないことに対し、怒りがこみ上げる。
「世界が滅ぶと言っているんだ! 何度も……」
「更夜! やめろ!」
栄次が咄嗟に声を上げたが、間に合わず、更夜はルナの頬を叩いていた。
「何度も言わせるなっ!」
「痛いぃ……おじいちゃんがぶった!」
ルナは泣きながら叩かれた頬を押さえる。更夜に初めて殴られたルナは動揺し、さらに泣き始めた。
「……ルナ、言いつけを破る子は悪い子だ。今日は厳しい……お仕置きだぞ」「更夜っ!」
栄次が止めに入るが、頭に血がのぼっている更夜は栄次をどかし、泣き叫ぶルナの胸ぐらを掴んで立たせる。
プラズマ、アヤは更夜の雰囲気に困惑していた。あきらかに更夜らしくない異常な行動。
「お前は俺の言ったことがなぜわからない!」
更夜は再び手を上げ、今度は叩いた頬と別の頬を叩いた。
「あぐっ……痛い!」
ルナは痛みに呻き、さらに大声で泣き始めた。更夜はルナにさらに手を上げる。
「お、おい……待て!」
プラズマが止めようとしたが、更夜はルナを叩き続けた。
アヤは怯えてプラズマを見ている。
「……っ。やめろ、望月更夜」
プラズマが声を上げ、栄次が更夜の手をとって壁に押し付けた。
「な、なにをする!」
「お前はこうしないと止まらないだろう。自分がしたことを考えろ! 頭を冷やせ、更夜」
栄次は神力を少し解放し、更夜を力をづくで止めた。
「……もう、帰らねば……スズを待たせている。ルナ……帰るぞ」
少し落ち着いた更夜は戸惑いながら、ルナを見る。ルナの顔は更夜により赤く腫れていた。
唇から血がしたたっている。
「う……うう」
震えているルナの背をアヤが優しくさすり、不安げにプラズマを仰ぐ。
プラズマはアヤに目配せをすると、更夜をまっすぐ見据えた。
「更夜、一度ルナから離れるんだ。頭を冷やして明日の朝、また来い。ルナは今日、うちで預かる。……更夜、ちょっと来い」
プラズマは更夜の肩を軽く叩くと廊下に出るよう促した。更夜はいつもの自分ではないことにようやく気づき、動揺しながら廊下に出た。
廊下に出て、玄関を抜け、冷たい風が吹く外に出たところで、プラズマは立ち止まり、暗い顔をしている更夜に目を向け、口を開いた。
「なあ」
「なんだ……」
「ルナはあんたが大切にしている娘じゃないのか?」
「……そうだ。そうだったはずなんだ。どうかしているよな。ルナに抵抗なく手を上げられるようになってしまったなんて」
更夜は動揺していた。
プラズマは目を細めてから、空を仰いだ。空には冬の星座が輝いており、横には輝く月があった。
「ケジメをつけさせるために、ルナにお仕置きをしていたんだろ? 尻叩きですませてやろうとしたのか」
「そうだ。こんな責任じゃすまないことは知っている。俺は……」
更夜は肩を震わせると涙をこぼした。
「申し訳なく思っている。どうかしているよな。栄次が止めてくれなかったら、まずかったな」
「あんたは頑張ったよ。俺達がルナをもう少し気にかければ良かったのかもしれない。あの子は……時神を監視する時神なんだろ」
プラズマは夜空から視線を更夜に移す。
「そうらしい。あの子はわかっていないんだ。神であるということが」
「そのようだ。一度……わからせた方がいいかもしれない。こんなことをすると、どうなるのかを。子供のお仕置きじゃなく」
「プラズマ……いや、紅雷王(こうらいおう)。ルナを守ってくれ」
更夜がプラズマに頭を下げ、プラズマは静かに頷いた。
「とりあえず、今日は頭を冷やすんだ。明日の朝、ルナに責任をとらせるため、あんたを封印罰にする」
「わかった。お前に従う。俺は親の愛を知らないんだ。だから、あの子が何を求めているのか、わからない」
更夜はうつむきながら、サヨに連絡を入れる。プラズマはスマートフォンでの会話が終わってから再び更夜に言葉をかけた。
「更夜……一つだけ言う」
「なんだ」
目の前に弐の世界への扉が出現した。
「ルナは、ずっとうちの隣の家……サヨの家を見ていたらしいぞ。優しくしてもらっていたついこないだを、思い出して悲しくなったんじゃないかな」
「……そうかもな。俺は、必死すぎたのかもしれない」
更夜はプラズマにそう答えると、弐の世界へ帰っていった。
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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」
FantasyFantasy and Japanese-style sci-fi story! This is a fantasy novel and fiction. Don't criticize me. Comments in English are also accepted! YouTubeにてボイスドラマ、アニメを公開中! Voice dramas and anime are on YouTube! チャンネル登録お願いします! Subscribe to the channel, please...