竜宮オーナーは最初に大きなため息をつくと、口を開いた。
「時神過去神はどうやら弐(夢、霊魂)の世界に入ったようだ。霊的月の姫がそう言っていた。月神は弐の世界のうわべを観察し、生きた魂が睡眠時以外で入らないよう、監視しているため、気づいたらしい」
オーナーは一度呼吸を整え、さらに言葉をつなげた。
「この件は月姫が調べているようだ。私は関係ない故、竜宮へ戻った。この件が気になるならば、霊的月へ行け」
オーナーは飛龍と地味子を抱え直すと、時神達に背を向け、歩きだした。
「待て......。あんたが参(さん)の世界......過去の門を開ける竜宮のオーナーだから、動けないことはわかっている。だが、関係ないと流すのはどうかと思うぜ。俺はな」
プラズマはオーナーの背中を睨み付け、静かに声をかける。
オーナーは再び足を止めると振り返り、ため息をついた。
「私はタケミカヅチ(剣王)やオモイカネ(ワイズ)のように世界の状態を掴めていない。そういうデータはないのだ。私はこの世界の『海』と『太陽の姫』を見守り、竜宮で参(過去)の世界への扉が開かぬよう監視する役目だ。過去神は竜宮から参(過去)へ入ったわけではない。管轄外ならば何もできない。力になれず、申し訳ない」
オーナーの言葉を聞いたプラズマは目を伏せると頭を下げた。
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。あなた様のお気持ちを考えていない、軽率な発言をしました。ご寛恕(かんじょ)願います」
オーナーはプラズマの言葉に軽く頭を下げると何も言わずに去っていった。
「ぷ、プラズマさん......?」
リカがプラズマを心配そうに覗く。
「......感情的になっちまった。あいつがあまりに冷たかったから......。世界創世に関係する、自然的な神は人間が『人間臭く想像してない』んで、あんな感じなんだよ。わかってたんだ。だが......」
「プラズマ、霊的月に行きましょう。情報、教えてもらえたじゃないの」
アヤはプラズマを冷静に見据える。先ほどの衝撃的な映像が心に傷をつけたはずだが、アヤは落ち着いていた。
「アヤ、わりぃ。そうだな」
「あなたがしっかり舵をとっているから、私達は怖さを克服できているの。あなたは失言なんてしてないわよ。私も言っていたかもしれない」
アヤの言葉にプラズマは苦笑いをすると、アヤの額を軽く突っついた。
「なにすんのよ」
「別に」
アヤとプラズマの話を横で聞いていたリカは、眉を寄せて首を傾げていた。
※※栄次は、倒れていた銀髪の青年にとどめを刺した。かなりの死闘だったのか、栄次の髪紐は切れ、長い髪が垂れ下がっている。
あちらこちらは血にまみれ、夕日が寂しげに辺りを照らしていた。
「......はあ、はあ......」
栄次は息を切らしながら、戦闘の興奮を沈めようと息を吐き続けている。
「はあ......はあ......」
栄次は目を見開いたまま、その場に膝をついた。栄次の体から滴る血が地面に吸い込まれていく。
......殺してしまった......。
ヒトを......。
人を殺してしまった......。
栄次は唇を震わせながら、整わない呼吸を必死で沈めていた。
栄次の霊的武器『刀』は生き物を斬ることができない。生き物を斬っても時間が巻き戻るだけであり、傷も塞がる。
一瞬来る痛みに相手が失神するだけだ。
「......なぜ、『人間の刀』を使ってしまった?」
栄次は目の前で炎に包まれる青年を震えながら見ていた。
「......なぜ、『殺そうと思ってしまった』?」
......戦が長すぎた故、俺は......止める理性を忘れてしまったのか?
栄次は目に涙を浮かべ、唇を噛みしめる。
......いや......、この記憶は間違いだ。
この過去は、本当はないはずだ。
誰も死んでいなかった。
......そうだ。
俺は誰も『殺していない』。
スズも生きている......。栄次は再び立ち上がり、暗くなる山道を歩き始めた。
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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」
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