栄次の心

15 0 0
                                    

 更夜は何度も栄次に負けた。
 栄次を殺すわけにはいかないからだ。栄次が納得するまで付き合う。
 「サヨが......サヨが泣いている......。もう戻りたい」
 更夜は血にまみれ、フラフラと歩きながら栄次に向かい刀を構えた。更夜の傷は歩く度になくなり、栄次の前に立つ頃には傷口は完全に消えていた。
 「もう一度か、何回やるんだ」
 更夜の問いに栄次は苦しそうな表情を浮かべる。
 「あの子は......復讐を望んでいない、泣いているぞ」
 更夜の呼び掛けに、栄次は答えない。
 「過去は変えられない。いい加減にわかれ、栄次」
 さらに更夜は声をかける。
 栄次はまだ更夜に刃を向けた。
 「お前があの子を苦しめている。このままだと彼女に『厄』がたまるぞ。負の感情を消さなければ、魂を消費できない。この世界に居続ける事になるんだぞ」

 更夜は一本の桜の木に視線を移した。栄次には何を見ているのかわかっていた。 先程からそちらを見ていないのに、『そう言っているはずだ』、『こんな表情をしているはずだ』と彼女の顔が勝手に浮かぶ。 桜の木の上にあの子がいる。 栄次と更夜を相討ちさせようと企み、残酷な笑みを浮かべている少女が。 「皆死んじゃえ! 私の計画通りに相討ちしてる! 憎い更夜を何度も殺してくれてる! 今度は栄次を殺してよ。あたしは二人殺さないといけないんだから」 桜の木の枝が揺れ、忍び装束を着こんだ幼い少女が降りてきた。 「スズ

Oops! This image does not follow our content guidelines. To continue publishing, please remove it or upload a different image.

 更夜は一本の桜の木に視線を移した。栄次には何を見ているのかわかっていた。
 先程からそちらを見ていないのに、『そう言っているはずだ』、『こんな表情をしているはずだ』と彼女の顔が勝手に浮かぶ。
 桜の木の上にあの子がいる。
 栄次と更夜を相討ちさせようと企み、残酷な笑みを浮かべている少女が。
 「皆死んじゃえ! 私の計画通りに相討ちしてる! 憎い更夜を何度も殺してくれてる! 今度は栄次を殺してよ。あたしは二人殺さないといけないんだから」
 桜の木の枝が揺れ、忍び装束を着こんだ幼い少女が降りてきた。
 「スズ......、辛いよな。目に涙を浮かべて、憎しみを全面に出したような表情をさせられて......」
 「......」
 更夜にそう言われたスズはさらに目に涙を浮かべる。
 「栄次......、お前はスズが長い年月をかけて自ら消費した厄を増やしているんだ」
 更夜が栄次を睨み、鋭く言った。それに反応したのか栄次は頭を抱え、感情的に叫ぶ。
 「お前達はっ......そんな考えではなかったはずだ! どうして俺だけ取り残されるんだ! いつも、そうなんだ! スズは俺と更夜を恨んでいて、更夜は俺を殺そうと、今までのいらだちを俺にぶつけようとしてきたはず! それが過去だ! それがお前達だ!」
 「栄次、よく考えろ、そして思い出せ。俺達はもう、ずいぶん前に『死んでいる』んだ。『もう死んでいる』んだぞ、栄次」
 更夜に肩を掴まれ、栄次は目に涙を浮かべた。

そんな考えではなかったはずだ! どうして俺だけ取り残されるんだ! いつも、そうなんだ! スズは俺と更夜を恨んでいて、更夜は俺を殺そうと、今までのいらだちを俺にぶつけようとしてきたはず! それが過去だ! それがお前達だ!」 「栄次、よく考えろ、そして思い出せ。俺達はもう、ずいぶん前に『死んでいる』んだ。『もう死んでいる』んだぞ、栄次」 更夜に肩を掴まれ、栄次は目に涙を浮かべた。

Oops! This image does not follow our content guidelines. To continue publishing, please remove it or upload a different image.

 「......もしかしたらと」
 栄次が目を伏せ、悲しそうに涙をこぼし始める。
 「もしかしたら、自分は『戦国時代』のままで......お前達の『未来』を何かの間違いで見たのかと。故に、助けられると思ったのだ」
 「それが最初か。お前は自分の心で、『もうすでに死んでいる』俺達を巻き込んでループしていただけだ」
 更夜は栄次の肩を掴んだまま、まっすぐ栄次を見据える。
 「......ああ。もうとっくに気づいていた。俺はいつも取り残される。もう疲れていたのかもしれぬ」
 栄次は涙を流しながら肩を震わせた。
 「お前の心の真髄は、もう限界だったんだな。俺も神になってわかったさ。お前の気持ちがな」
 更夜は栄次の肩から手をそっと離した。
 「更夜......お前が神になったのは、『俺のせい』なんだろう?」
 栄次は袖で涙を拭いながら、更夜に尋ねた。
 「ああ、お前のせいさ。お前が唯一斬り殺した人間が俺だ。世界に矛盾ができてしまい、俺は神になった。この世界は、参(過去)の世界だけじゃない。壱(現代)、肆(未来)、陸(バックアップ世界)がある。俺は参でお前に殺されたんだが、他の世界ではお前に殺されていない。だから、世界が矛盾をなくそうと、俺を時神にした。神が決闘で人間を殺すと面倒なことになるんだ。お前は人間を殺してはいけないはずだ。なぜなら、お前は過去を守るだけの神だから」
 「......その通りだ」
 更夜の言葉に栄次はうなだれた。
 「スズもそうだ。お前がこのループを起こしたから、彼女も人間の霊ではなくなってしまうかもしれない」
 更夜はうつむいているスズを横目で見る。栄次はスズの本当に悲しそうな顔を見て、心をえぐられた。
 「......すまぬ。......ああ、もう消えてしまいたい」
 栄次は心の真髄でずっとこの言葉を叫んでいた。心を隠し、嘘の心を上部の世界に置いた。
 強く戦う自分の姿で弱い自分をずっと隠していたのである。
 「......何をしていたんだろうな、俺は......」
 自嘲気味に笑った栄次の後ろで不思議な少年が無表情のまま浮いていた。

(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」On viuen les histories. Descobreix ara