エピローグ

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 「リカ、ワールドシステムで何があったの?」
 アヤがリカに抱きつきつつ、尋ねる。
 「よく、わからないけど、ワールドシステムに『命令』したら、ワイズが巻き戻って消えて......。ま、まあ、とにかく、今回は終わったんだって」
 リカも実際によくわかっていない。マナが壱にリカを帰してくれた事はわかっているのだが。
 「まあ、とにかく、終わったんだな! あー、長かったあ」
 プラズマは力が抜け、その場に座り込んだ。刹那、気を失っているナオとムスビが目覚める。
 「ワイズがっ!」
 ナオは戸惑いながら立ち上がり、時神達を見て首を傾げた。
 「時神......なぜここに? ワイズは? 私は先程、ワイズの神力を浴びて気を失って......」
 夢の中でアヤが時間を巻き戻したので、『寝ていた』という部分はなくなっているようだが、その後、すぐにワイズに気絶させられたらしい。
 「......ワイズに気絶させられたことより、プラズマ......てめぇだよ、てめぇっ!」
 ムスビは起きてすぐにプラズマの胸ぐらを掴んだ。
 「な、なんだよ......こえー......」
 プラズマの脳裏に「すまん! 後で飯もおごる」の言葉がよぎり、冷や汗をかく。
 「よくもやったな」
 「ちょ、何が?」
 プラズマはとぼけることにした。プラズマに問われたムスビは「なんだっけ?」と首を傾げた。
 「なんか、夢見ていたんだろ? 気にすんな、気にすんな」
 「よくそんなことが言えるな......お前は......」
 飄々と言うプラズマに栄次が頭を抱える。
 「まあ、いいじゃねーか。ムスビ、後で酒飲もう! 恋についてたまってるもの吐き出せ。聞いてやるから」
 「なんで、お前に話さなきゃならないんだよ。やだよ」
 「いいじゃねーか、ライバルの栄次も連れてく?」
 プラズマは含み笑いをしながらムスビを見る。ムスビは顔を真っ赤にすると、プラズマの耳を摘まんだ。
 「いででっ!」
 「ナオさんの前で、変なこと言うなよ!」
 「ムスビ、ケンカしないでください。こわいです」
 「ごめん、ナオさん、怖がらせちゃって......その......」
 ナオが小さく声を上げたので、ムスビは素直に手を退いてあやまった。
 ナオはため息をつくと、口を開く。
 「とりあえず......ワイズの件は高天原に持っていきましょう。私達は西の剣王軍。勝手に手を出したワイズは罪になるのでは?」
 「揉み消されそうな予感がするけど......」
 ナオの言葉にムスビは軽くはにかんだ。
 「俺達もワイズと剣王を罪に問えるかもしれないなあ。ほら、俺達は北の冷林(れいりん)軍所属だろ、一応。栄次は剣王に攻撃されているし、アヤは身体中かわいそうだ」
 プラズマがひとり頷き、栄次が答える。
 「持っていくか。俺の件は恥ずかしいのだがな......」
 「恥ずかしいか。あんたらしいな。だが、冷林には話さないと」
 「ああ」
 プラズマと栄次は体を伸ばし、アヤとリカを視界にいれ、優しく笑った。
 「ああ、あんたらは休んでな。ちょっと栄次と高天原に行ってくる」
 「......ほんと、いると頼もしいわね。ナオとムスビも行くんでしょう? 歴史書、片付けておくわね」
 「あ、ありがとうございます、アヤ」
 ナオはアヤに微笑むと、ムスビを連れて先に出ていった。その後をプラズマ、栄次が追いかける。
 歴史書店はふたりだけになった。二人でいるとやたらと広い。
 「アヤ、ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。私、ちょっと強くなれたような気がする。覚えてないかもだけど、ずっとアヤは私に優しくしてくれたんだよ」
 リカにそう言われたアヤは目に涙を浮かべると、リカの頭をそっと撫でた。
 「これからも一緒よ。よろしくね、リカ」
 「うん! とりあえず、片付け、やれる範囲でやろう!」
 アヤとリカはお互い手を叩き合うと、少しずつ、散乱した本を片付けていった。
 日が沈み、星が輝き始めた頃、ようやくプラズマと栄次が帰ってきた。アヤとリカは疲れ果てて寄り添って眠ってしまっていた。
 ナオとムスビはきれいになっている歴史書店を見て、寝ているアヤとリカに小さく「ありがとう」と言った。
 「あーあー、女の子がこんなところで、だらしなく寝ちゃってるよ」
 「せめて、足は閉じて寝てくれ......。大の字はまずい......。この子達は心配だ......俺は」
 プラズマはあきれ、栄次は眉間にシワを寄せている。
 「とりあえず、どっちか抱っこしろ。『帰る』ぞ」
 「ああ......無防備に寝ているな......。心配だ......俺は」
 プラズマが近いところにいたリカを抱え、栄次はアヤを抱えた。
 「家もらったもんなあ、俺ら。ワイズと剣王め、はじめからお詫びを用意して罰を回避したな。家具付きで清掃までしといたとか」
 「......予想はできていたが」
 プラズマと栄次はナオとムスビに軽く手を振ると、歴史書店を出て、月が照す夜道を歩き出す。
 「えーと、こっちか、えー、坂を登るのかよー」
 「行くぞ。俺も疲れた」
 「栄次って疲れんの?」
 「お前、俺をなんだと思っている......」
 二人は坂を登り、坂の上にあった住宅街に入った。
 「やっほー!」
 ふと、やたらと元気な声が聞こえ、栄次とプラズマの肩が跳ねる。
 「......サヨか」
 「びびったあ......」
 「あんたらの家、ここになったの? ずっと空き家だったんだよ~ん! あたしんちの横じゃん! ウケる。お隣さ~んだね~」
 隣の庭からサヨが楽しそうに手を振っていた。
 「お隣さん......てか、あんた、こんな夜遅くになにしてんだよ」
 「忍者の練習!」
 「癖が強いな......。まあ、頑張れ」
 疲れきっているプラズマはサヨを適当に流し、かなり広い、大きな家を見上げる。
 「家でっかい......四人でシェアハウスか......むずがゆいな、なんか」
 「まさか、こんなことになるとはな......」
 玄関の扉を開けようとした刹那、アヤとリカが目覚め、目を丸くする。
 「ああ、勘違いすんなよ、お持ち帰りしようとしたわけじゃねぇから! 皆で住む家だ。ていうか、お持ち帰りって、なに言ってんだ、俺。ここ、俺達の家だぞ」
 プラズマが言い、アヤとリカは動揺の声を上げる。
 「え? な、なに......」
 「ええ?」
 「お隣さんだよ~、よろしく~! あ、お楽しみの夜はこれからかな~! 忍者プレイ、忍者ァ~プレイっ! しゅりけ~んっ!」
 「サヨ! ややこしくすんな! 頼むから」
 サヨの言葉により、アヤとリカは情報が多すぎて、そのまま気絶した。
 「はあ......サヨ、早く眠れ。今日は助けてくれたな、すまない」
 栄次が真面目に言い、サヨは「ニヒヒ」っといたずらっ子のように笑った。
 リカのループは終わった。
 リカは壱で時神達と共に過ごす決意をしたが、伍も守るつもりだ。
 壱と伍は、離れることも繋がることもなく、そのまま進む。
 しかし、リカが現れたことで、世界が少し変わった。
 「私は......頑張らなくちゃ......伍の神も、人も守るんだ」
 リカが夢の中でつぶやき、栄次とプラズマは軽く驚いた後、リカに微笑み、頭を優しく撫でた。

 冷たい夜風が吹くが、春は近い。
 

 冷たい夜風が吹くが、春は近い。 

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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」Where stories live. Discover now