戦いはまだ

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 リカが世界から出られず、途方にくれていると、またも誰かの声がした。
 抑揚のない女の声。
 「......って、この声、聞いたことがある!」
 「ワールドシステム内に入ってしまった神を助けに来た」
 リカが声の出所を探していると、目の前に青い髪のツインテールの少女が現れた。
 「......やっぱり、ワダツミのメグだ!」
 眉を寄せてメグを見ていると、メグは首を傾げてリカに近づいてきた。
 「うん。......私は誤ってシステムに入ってしまった者を外に出す『K』でもあるから。おかしくないけれども」
 「え......? 『K 』なの?」
 さらりと言ったメグの言葉にリカは目を見開いて驚いた。
 「ワダツミだけれど、『K』でもある。あなたをここから出してあげる。データ改変であなたを伍へ送らなくてもよくなったよう」
 「え......ちょっと待って......」
 「なにかな?」
 メグは表情なく首を傾げた。
 「......いや、別になにもないんだけど......この世界ってどうなってるのかな? マナさんは......」
 「......世界は世界だ。神は神。『K』は『K』。マナサンとは何?」
 メグは表情なく、淡々と尋ねてきた。
 「えー......えーと......あ、アマノミナカヌシ!」
 「......ああ、ワールドシステムの先にいる『存在のない何か』か。私は知らない。ビッグバン前にこの世界にいた『何か』のようだが、『滅んでいる』ため、わからない。『前回の世界』を参考にするため、『世界』がデータだけ残したようだが」
 「......そ、そう」
 リカには届かない所の話なので、よくわからなかった。
 「では、出ようか」
 「......うん」
 メグがよくわからない言葉を発し、言葉は電子数字に変わってリカの周りを回る。
 「では、ワールドシステムにアクセス『転送』」
 そこだけハッキリ聞こえ、リカの視界はホワイトアウトした。

※※

 「なかなかしぶといな」
 ずっと夕闇の海辺でスサノオは時神達に笑みを向けていた。
 プラズマ、栄次はアヤをかばい、負傷するが、アヤがすぐに回復させる。
 「そこの現代神が厄介なんだが、そろそろ疲れてきたか? 神力が乱れているぞ」
 「見抜かれているわね......。こんなに連続してやるともたないわ......」
 アヤは荒い息を漏らしながら、栄次に時間の鎖を巻き、神力を浴びる前に戻す。
 「アヤ......」
 「大丈夫よ。まだ......」
 栄次は心配するが、すぐにスサノオの攻撃に集中し、神力はプラズマが結界で弾いていく。
 「......私が倒れたら負け。でも、本当はもう......神力が出ないの......」
 アヤは膝から崩れ落ち、砂浜に座り込んでしまった。
 体が重い。足はもう動かない。
 スサノオはアヤの様子を見、攻撃をアヤに向けた。
 「アヤを狙うんじゃねぇよ」
 プラズマがスサノオを睨み付け、結界をアヤに向けて張り、栄次はアヤの前に飛び込んで、スサノオの剣を受け止めた。
 プラズマはすぐに、銃をスサノオに向けて撃つ。
 スサノオには当たらなかったが、栄次は一瞬の隙に剣を刀で受け流すとアヤを抱いて逃げた。
 スサノオは栄次が逃げた先に神力を向け、プラズマが栄次の前に結界を張り、失神を防ぐ。
 「しぶといねぇ」
 スサノオはいまだに笑みを向けている。
 「栄次、ありがとう」
 「もう、動けぬか? 動けるならば、お前だけでも逃げるのだ」
 「そんなこと、できないわよ。最期まで一緒にいるわ」
 アヤは栄次に苦笑いを向けた。
 「そうか。スサノオにお前だけは斬らぬよう......俺の最期に願ってみよう。斬殺される女は見たくない故。非力な俺を許せ......アヤ」
 「やめて。なんとかして生き残るのよ」
 「......ああ、だな」
 栄次とアヤが軽くそんな会話をしているところに、突然リカが投げ出されてきた。リカは派手に砂浜に叩きつけられると、涙目で起き上がる。
 「いったた......」
 「リカ!」
 時神三柱は驚き、それぞれ叫んだ。

  「ワールドシステムには入れたの?」
 アヤは不安げな顔でリカを見た。
 「う、うん......入れた。でね、色々変わったみたいで......」
 リカはスサノオを恐々見据えながら、アヤに細々と語る。
 「ふむ、マナが負けたか」
 スサノオはリカを見、苦笑いをし、続ける。
 「じゃ、俺は手をひく。アマノミナカヌシのデータが負けたなら、何をやっても負けよ。命拾いしたな。まあ、次会ったらどうなるかわからないが。今回の運命はあんたらの勝ちだな」
 スサノオはあっさりと剣を鞘にしまうと、陽気に去っていった。
 「うそ......そんなあっさり......」
 アヤがつぶやき、栄次とプラズマが同時にその場に座り込んだ。
 「生きてた......はあ......」
 プラズマが拳を天に向かって突き上げ、栄次が刀を鞘に戻す。
 「なかなかに手強い相手だった」
 「プラズマ、栄次、ありがとう。私を守ってくれて......あんまり役に立てなくてごめんなさい」
 アヤは心配そうに栄次とプラズマの怪我を見つつ、申し訳なさそうに言った。
 「いいんだよ。あんたはよく頑張ったし、アヤがいなきゃ、死んでたぞ。俺ら」
 プラズマはヨロヨロと三人の元へ歩き、座り込んだ。
 「アヤ、すまぬ、助かった。お前は大丈夫か?」
 「ええ、私は疲れただけよ」
 栄次の言葉にアヤは、安堵のため息と共に小さく答えた。
 「リカ、怪我をしている。大丈夫か? お前も戦ったのか......」
 栄次はリカを心配し、プラズマが顔をしかめた。
 「あんた、何と戦ってきたんだよ......。顔に傷とかかわいそうだなあ......女の子なのに」
 「そう、ですよね......。なおるかな......」
 リカはやや落ち込んでいた。
 「プラズマ、顔は軽い傷だが、それよりも腹の傷のが重そうだ。処置できるものがない故、先程の場所に戻るのが良さそうだが......」
 栄次は辺りを見回すが、戻れそうな場所はない。
 「どうやって戻るの? 壱に戻ったら、剣王は襲ってくるのかしら?」
 アヤはリカの背を撫でながら考える。
 「たぶん......ここに入ったのと同じことをすれば、帰れるんじゃないかな? これ、使えそうだけど」
 リカはアマノミナカヌシの槍を出現させ、軽く振った。
 「......なんだよ、それ......初めて見たぞ」
 プラズマは槍を興味深そうに眺めつつ、首を傾げた。
 「これ、実はよくわからないんです。ですが、ワールドシステム内にいたアマノミナカヌシの......マナさんと同じ槍で......」
 「じゃあ、私の血で五芒星がでるか試して、その槍を五芒星に刺せば元に戻るのかしら? リカ、ナイフを出して」
 アヤがリカに近づこうとした刹那、尖った三角のサングラスをかけた、不思議なニット帽をかぶった少女が不気味に笑みを浮かべながら現れた。袴を着ているところからすると、なにかの神か。
 「いや、あの子は......たしか......」
 リカが最後に死んだ時、リカを覗き込んでいた少女だ。
 たしか......
 「ワイズかよ......」
 プラズマが頭を抱えつつ、少女を睨み付ける。
 「そうだYO! 東のワイズこと、オモイカネ! ワールドシステムに入ったんだNE? データが書きかわっているYO。そのうち、人間達が時神の認識を改めるだろうNE。時神は同じ世界線にいるとな」
 「ん? どういうことだ」
 栄次が目を細め、プラズマが頭を抱えた。
 「俺達が同じ世界にいるというデータに変わっただと?」
 「そうだYO。過去の世界、参にもお前ら三柱は存在し、未来の世界、肆にもお前らが存在するということだYO。お前ら三人はこれから同じ世界で存在する」
 「なんてこった......。で? あんたは俺達とやり合う気なのかよ?」
 ワイズの言葉にプラズマはため息をもらす。
 「幼いおなごの風貌のお前を斬りたくはないが、俺自身が負けそうだ」
 栄次は自嘲気味に笑った。
 「ははは、私は戦う術をもたない。頭脳だからNE。だから剣王が動いたんだ。ただ......壱を守るため、異世界少女を邪魔してみようかとは思うYO」
 「なんなの......」
 リカがワイズの異常さに怯えていると、世界が歪み、海の世界から強制的に外に出された。
 「頭脳勝負といこうかYO。この世界をハッキングした。そう簡単には出さないYO。出られたらお前の好きにするがいいYO」
 ワイズはそう言うと、電子数字に紛れ、消えいった。
 リカと時神達は不思議な浮き島に取り残されていた。
 浮き島は空を浮遊しており、他は何もない。
 「何......ここ」
 リカは困惑し、時神三神を見据えた。
 

(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」Where stories live. Discover now