「......ちくしょう......。また、戻った」
リカは涙目になりながら、悔しそうに拳を握りしめた。
だが、今回はいつもとは違った。色々な事がわかったのだ。
「まず......」
リカは勉強机の椅子に座り、メモとペンを用意する。
「アヤと出会うのが本来の運命である。それから......」
リカは顔をしかめた。
「あの時、私の涙か、アヤの血でワールドシステムとかいうのが開いた」
これを確かめるためには、アヤに怪我をしてもらわなければならない。
「......血を流させる......」
リカは唾をごくりと飲み込んだ。
「ま、待てよ。その前にワダツミの矛......。矛をお持ちですかって聞いてきていたな。ワダツミというと......メグだ」
リカはメモに「ワダツミのメグが持つ矛」と書いた。
刹那、玄関先のチャイムが鳴った。
ピンポーン......
「もう来たか。......よし!」
気合いを入れたリカは玄関のドアを開け、笑顔の少女を睨み付けた。
「リカちゃん、今夜の零時に......」
笑顔の少女、マナは同じような言葉を発している。
......マナはなんなんだろ。
私に何かをさせたいのか?
彼女はこのループに巻き込まれていない気がする。空が曇り始める。
また、降るのか。
雨か、雪か、槍か。
いや、矛か。※※
リカは大人しく、水溜まりに落ちた。
「あーあ、またここだ」
水溜まりに落ちたら深海にいる。いつもと同じだ。
今回は矛を狙うつもりである。
ワダツミから奪うか、貸してもらうかしなければならない。
流れるようにメグが現れた。
「結局、あなたはなんなの?」
何度も聞いた言葉をワダツミのメグが言う。
リカは迷った後、時神であると答えた。
「時神......。壱の時神ではないのだとすると、伍(ご)の時神だけれど、向こうに『この手の神はいない』し、よくわからないから、壱の時神、アヤを頼りなさい」
リカがいた世界、伍には時神がいないらしい。
「その前に、メグさんは矛を持ってます?」
「......矛。私の霊的武器だが?」
メグは不思議な色をした幾何学模様の矛を、手のひらから手品のように出した。
「不思議な矛......。それ、貸してくれませんか?」
「......持てるのは私の神格を持ったものだけだ」
メグは身長と同じくらい長い矛をリカに渡してきた。
リカはとりあえず受け取ったが、矛は泡のように弾けて消えていった。
「......消えた」
「あなたは私の神格を持っていないようだけど」
「で、でも! それがないとっ!」
リカは必死にメグに詰め寄るが、メグの表情は変わらなかった。
「じゃ、じゃあ! メグさん一緒に......壱に」
「私はここから動けない。ここは魂や心の世界、弐(に)の世界の入り口。私は弐の世界のみ入れる」
メグの言葉を聞き、リカは軽く絶望した。
矛は手に入らないのか?
「......どうすれば......」
「とりあえず、伍に送ろうか、壱のアヤに頼るか......」
気がつけばメグは元の会話になっていた。これから聞き覚えのありすぎる会話になっていくはずだ。
「はあ......」
大きなため息をつきつつ、リカは壱の世界......、アヤがいる世界に送られることを望んだ。
とりあえず、ワールドシステムとやらに入るのを目標に、頑張るしかないとリカは思うのだった。雪が降っている。
恐ろしく寒い。
リカは雪の上で倒れていた。
とりあえず、身体を起こす。
「いつもの公園だ」
しばらく、ぼうっとしつつ、アヤが来るのを待つ。
「寒い......寒すぎる」
とにかく寒い。
しかし、歯を鳴らしながら寒さに耐えるしかない。
「もうダメだ......萎えそうだ......。もう迷わない、負けないって決めたのに。そう、私はずっとひとりで戦ってる。いつまでも戦えるか......」
「......あの......大丈夫ですか?」
気がつくと、震えるリカを心配そうに見ているアヤがいた。
アヤはマフラーに手袋、コートと防寒対策しっかりした服装をしていた。
「あ......アヤ......」
「......? 私を知っているの?」
......ああ、またこの会話か。
リカはうんざりしながら、最初から説明をする。今回はアヤに血を流させないとならない。
それが目標だ。
ワールドシステムを出現させるためにどうすればいいのか、まだわかっていないのだ。矛はないが、ワールドシステムの開き方がわかれば、なんとかなりそうだ。
......どうやって怪我をさせる?
リカは優しいアヤに攻撃をすることはできなかった。
だから迷っている。
「もう一度、あの吹雪は起こるか......確かめてみて......考える」
「......あの......リカ?」
アヤは不安そうにリカを見ていた。
「あ、いや、なんでもないよ。商店街の方に連れていってくれる?」
「え......ええ」
アヤは戸惑いながら、リカを連れて歩きだした。
「寒いわよね? マフラーと手袋......貸してあげるわ。とりあえず、私の家であたたまりましょう? 商店街を抜けた先だから」
「......ありがとう......」
リカはアヤの優しさに涙してしまった。アヤは本当に優しい。
今もずっとリカを気にかけている。
「泣かないで......リカ」
「うん......思い出してはくれないよね?」
「......?」
リカの言葉にアヤは首を傾げた。
「ごめんね。なんでもないんだ」
「そう......」
今回、アヤの様子が何か変だった。何かを考えている。
今までの記憶が流れ、時間がおかしくなり、頭痛が襲い、商店街に入ってプラズマと栄次に出会った。吹雪は起きない。
「うう......どうしたら......」
「おい、この娘はなぜ、辛そうなんだ? 寒いからか?」
栄次が優しく声をかけてくる。
「震えてんじゃねーか。俺の上着だけど......着る?」
プラズマが上着を脱いでリカに渡してきた。プラズマは下に薄手のシャツを着ていた。
「......プラズマさんが寒くなってしまいますよ......。私は......平気ですから」
リカは上着を持ちながら、どうしようか迷っていた。
「......娘......リカだったか? 身体を冷やしてはいかぬ。着るのだ」
栄次が再び声をかけ、リカは渋々上着を着させてもらった。
暖かい。
心まで暖かくなる。
ふと、プラズマの腰に銃がぶら下がっているのを見つけた。
「あ、これ? あぶねーよ? 未来の銃で俺の霊的武器だ。栄次は刀なんだ。神は何かしらの霊的なものを持ってる」
「霊的なもの......」
プラズマの発言で、メグが言っていた事を思い出す。
メグが持っていた矛も「メグの霊的武器」だった。
神なら何かしらの霊的なものを持っている......。
「じゃあ、私は何を持っていますか? 私は時神なんです」
プラズマにリカは尋ねてみた。
「いやあ......わからねぇ。出してみたら?」
「出す? どうやるんですか?」
「右手か左手に意識を集中させる。慣れてくれば俺達みたいにずっと出していられるぜ。ちなみにもうひとつの霊的武器は弓だ」
プラズマが右手をかざすと、装飾されていないシンプルな弓が現れた。
「ほれ。デカイから普段は消してるんだ」
プラズマが手を離すと、弓はホログラムのように消えていった。
「......すごい......私も......」
プラズマの言った通りに手に集中してみた。頭に小型のナイフのようなものが浮かんだと思ったら、右手が何かを握っていた。
「ふーん、あんたはナイフか。今時だなあ。宝石みたいにきれいじゃねーか」
プラズマが装飾されたキレイなナイフを興味深そうに眺め始めた。金色の赤い宝石が散りばめられた美しいナイフだった。
小刀かもしれないが。
そんなことよりも、リカは手にナイフを持っていることが恐ろしかった。
......アヤに傷をつけられる......。
そう思ってしまったからだ。
「アヤの血で......ワールドシステムが開くかもしれない。私が泣かないで......血だけで......」
......どうせ、誰も覚えていないんだ。今回だって、どうせ忘れる。
「はあ......はあ......」
リカは震えながらナイフをアヤに向けると、飛びかかった。
先に動いたのは栄次だった。
無意識にアヤを守ろうと動いたのだ。
リカの腕を取り、地面に押し付ける栄次。ナイフはリカの手から飛んでいき、雪に埋もれて消えていった。
「お、おい、栄次......」
プラズマは戸惑った声をあげていた。
「アヤを狙ったな。何が目的だ。殺すつもりだったのか?」
「栄次、みろよ......」
鋭い言葉をかける栄次を、プラズマが止めた。
「うっ......うう......」
リカが苦しそうな顔で泣いているので、栄次は優しく手を離した。
「すまぬ。刃物でアヤに斬りかかった故、危険と判断したのだ」
「そりゃ、そうですよね」
リカはうずくまって涙を拭う。
「リカ......どうして私を狙ったの? 苦しそうだから、なにか理由があるんでしょう?」
アヤは恐怖を抱いたようだが、それよりもリカの様子を心配していた。情緒が不安定な神は放ってはおけない。
「ごめん。アヤ......。狂ってるんだ。私」
リカは頭を抱えて落ち込んでいた。
アヤに理由を言ったところで、ループからは抜け出せない。
そして、ここで気合いを入れて説明しても、次の時に誰も覚えていない。
「誰も......覚えてないんだ。こんなに何回も会っているのに......皆、覚えてないんだ。栄次さんもプラズマさんもアヤも......私を思い出さない」
リカがせつなげに時神達を仰ぐ。
ふと、栄次が目を伏せながらつぶやいた。
「何度も会っているのか......? ならば......過去見を使ってみようか。お前の過去を見る。俺は過去神。過去を見れる」
栄次が初めての言葉を発した。
「ウソ......」
「できるぞ......? やるか?」
栄次はリカの涙を親指で拭ってやると、そのまま頬を撫でた。
リカを覗き込む栄次の瞳の奥には時計の針が回っていた。
「......お願い......します」
リカは溢れる涙で栄次がぼやけていたが、目が合った瞬間に今までの記憶が栄次に吸い込まれて行くのを感じた。
「何度も何度も......殺されて......何度も何度もやり直したのか。俺はリカを守ってやれなかった。眼鏡の少女と......この神は誰だ......。紫の髪の男......。そうか、辛かったな」
栄次からそんな言葉が飛び出した。
「私のことが......わかったんですか......?」
「ああ......アヤを殺そうとしたわけではないのだな。すべて見えた。お前は別の世界から来たのか。信じられんが」
「栄次さん......」
リカはその場に膝をついて声を上げて泣いた。
「ど、どうした? 栄次、何を見た?」
プラズマはリカが激しく泣くので、とりあえず寄り添って背中をさすった。
アヤもリカに寄り添う。
「......この子は、高天原の東と西に、狙われている。東の頭、思兼神(オモイカネ)ワイズと西の頭、タケミカヅチ、剣王に殺される。なぜか、すべてがなくなり、同じことを繰り返している。つまり、何度も......痛みと恐怖を味わっている」
栄次は顔を歪めながら、リカの頭を撫でた。
「......繰り返している? ループか。なるほどな......。俺もこの子の未来を見てみる」
プラズマの言葉に栄次は深く頷いた。
「未来を見るか、そうだな。繰り返しているのなら、お前にもこの子のことが見えるはずだ。未来も同じなのだからな」
栄次もリカに寄り添い、プラズマに未来見をするよう促した。
「じゃあ、リカ。顔を上げて。俺の目を見て」
リカは涙を拭い、プラズマと目を合わせた。リカの、これから起こるかもしれない未来がプラズマに吸い込まれていく。
もう、すでに過去に流された事もなぜか出現した。ループしているため、過去のことでも未来になるのか。
どうせ、また起きることだから。
「......そっか」
プラズマは珍しく真面目な顔で目を伏せた。
「そうだったんだね。理解したよ。なぜか、俺達は覚えていない。いつも......覚えていないんだ」
リカは突然に理解され、どうしたらいいかわからなくなり、時神達にすがって泣いた。
なぜなのかはわからないが、時神達がリカを理解した。
ワールドシステムが開いた事で何かが狂ったのか、時神達がやったことのない事をやってきたのだ。
つまり、今回は大切に進めば、ループしなくても良くなるかもしれない。
そう、大切に進まなければならない。
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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」
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