「栄優(えいゆう)さん……、栄優さん……」
弐(精神、霊魂の世界)にある神々の図書館内。
ある時神と「同じ顔」の男が本を片手に閲覧席で眠ってしまっていた。
「栄優さん……お疲れなのですね」
この図書館の館長、天記神(あめのしるしのかみ)は優しく笑う。
天記神は中身は女性だが体は男性である。物腰の柔らかい、優しい青年だ。
「歴史神になってまだ、日が浅い……真実に気づき、時神について調べ始めましたか。あなたはまだ知らないでしょうが、双子だったために生き別れた弟がいるのですよ。当時の双子は嫌われてましたからね……。私は伝えませんよ。自分で知った方がいい。眠っていると……子供みたい……」
天記神は毛布を栄優にかけてやる。栄優は幼さがわずかに残る顔で眠っていた。
「彼は亡くなってから神になった。若くして亡くなった。十八だったのよね……。大変だったわね。同時期に栄次さんが時神に……。栄優さんの家系は初めから神格化していた、人間の皮を被った藤原氏だったのかもね」
天記神は栄優の頭を優しく撫でると立ち上がり、テレパシー電話を始めた。
「……ムスビさん、ナオさん、時神が新たに増えています。神力の確認に向かってくださいませ。え? ナオさんが寝ている? 起こしなさい! 真っ昼間で歴史書店が開店してるはずでしょう! 店長が寝ててどうするの! ……全くもう……」※※
サヨはルナを連れてお墓参りに来ていた。
「ほら、ここが先祖様のお墓。で、ルナの片割れの双子の子がここにいる」
サヨは夕焼けで橙に染まる山々を眺め、流れていく桜の花びらを手にとる。
「桜ももう終わりだね」
「……お姉ちゃん……」
ルナは不安げにサヨを見上げた。
「なに?」
「小学校って楽しい……かな?」
「まあ、幼稚園とは違うけど、あたしは楽しかったよ! こないだピカピカのピンクのランドセル、買ってもらってたじゃん。脇に宝石みたいなキラキラついてるやつ!」
サヨは優しく笑う。夕日に照らされたサヨの顔は新しい気持ちで輝いていた。
しかし、ルナの表情は暗い。
「おともだち、できるかな。ルナ……おともだちに話しかけられるかな……」
「そんなこと考えたってしょうがないじゃん? 大丈夫だよ、たぶん。ほら、ママとパパとお兄が待ってる行こ!」
「……うん」
……あのね、お姉ちゃん……。
ルナは幼稚園の時に、友達ができなかったの。
ねぇ、お姉ちゃん……
聞いてほしいの。
ルナは言葉を発することなく、言葉を飲み込んでしまった。
ルナはお墓をちらりと見ると軽く頭を下げてサヨを追った。
桜の季節が終わり、新一年生のルナは伏し目がちに学校へ向かっていた。新しいピンクのランドセルはお気にいり。
ルナが知ったことではないが、昔は赤や黒、青あたりが主流だったらしい。今は様々な色のランドセルがある。
朝は姉のサヨと通学している。
兄の俊也はいつも忙しそうなため、一緒には行っていない。
「もうあついねー! 葉っぱも緑になったじゃん」
サヨはいつも陽気にルナに話しかけてくる。ルナは姉のようになりたいとも思うが、あこがれのままだった。
新学期が始まってそろそろ二週間。ルナは友達との話し方がわからなかった。それによりすでにクラスから孤立していた。
もう見えない友達の輪ができている。ルナはその友達の結束を深めるための餌食になっていることに気づいていない。
故に、話しかけようとしてしまう。
……ルナはいつも無視されちゃうの。皆、ルナのこと、きらいなのかな。
はじめはそう思っていた。
「あ、ルナ、学校着いたよ! あれ? 大丈夫? ねぇねの話聞いてる? 寝ぼけてる?」
「あ……だ、大丈夫だよ。お姉ちゃん……! ごめんなさい」
ルナは小さくあやまると笑顔でサヨと別れた。
「……最近、なんか変だな……」
サヨは慌てて走り去る小さな背中を眉を寄せて眺めていた。
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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」
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