ワイズはサングラスを外し、珍しく真面目な顔で、プラズマを揶揄しつつ、プラズマの「てめぇ」発言に対して同じく「てめぇ」を使い、言葉を返す。
手前とは本来、自分のことを指し、お前とは自分の前にいる相手に対し、使う。しかも、お前は元々とても丁寧な言葉である。
「お前はいつも、俺達を自分のために追い詰める。頭としては感情的すぎるんじゃねぇか? ワイズ」
「私がいつお前らを追い詰めた? 言ってみろYO。私は壱を守る神だ。『お前ら』に危害を加えたことはない」
ワイズは冷静に言う。
大して危害を加えていないのは確かだ。ワイズは他の神に汚れ仕事をやらせているが、指示を出した形跡がないのである。
そしてこの『お前ら』という言葉に『リカはいない』。
ワイズは壱を守る正義として、世界を保つデータを持つ者として、正常な動きを見せている。
彼女にとって、リカは警戒対象であり、ワールドシステムにより認められたのだとしても、時神にエラーが出ていることに疑問を持っている。
つまり、リカを守護するつもりがない。表だってリカを消したいとは実はリカが壱に入って混乱を産んだ事件から、一言も言っていないのである。
プラズマは息を吐くとワイズを睨んだまま、追加で言葉を発っした。
「まことにその通りでございます。しかしながらお前は……」
口もとを緩め、青筋をたてながらプラズマは続ける。
「甚だ、癇に障る女だ」「あっははは! 絶妙に中傷ではないNA」
ワイズが笑い、プラズマは気持ちを落ち着け、続きを話す。
「こんなくだらないことを話しにきたのではないのです。思兼神、関わった軍の神々を呼んでくださいませ。高天原会議にて、太陽神サキより、この話がおそらく出ます。お話が出れば、恥をかかれるかもしれません」
「うちのモンはお人好しが多いからNA。だが、まあ、ここで真実を言ってもらうか。重罪なことは重罪だが。ルル、逢夜、天御柱……いますぐ来い」
ワイズは脳内回線でルル達を呼んだ。
最初に来たのは天御柱神(あめのみはしらのかみ)、みーくん。
「やっと呼ばれたか。証言をしろって話か?」
「ああ。そういうことだYO」
「じゃあ、話すぜ。紅雷王は確かに俺の邪魔をした。だがまあ、それから色々あって、時神に協力したわけだ、俺はな。とりあえず、望月更夜がヤバかったんで、白金栄次に止めてもらった。望月凍夜は俺の独断で『K』のサヨ率いる霊達に任せた。追加でお前との約束で太陽の姫を守護する約束をしていたが、サキは負傷してしまったんだ。だから、現代神、アヤが治した。時神がいなけりゃあ、ワイズ、咎められてたんじゃないか? 太陽に」
みーくんがそう語り、ワイズは軽く笑った。
「太陽の姫は無理やり連れ出したわけでもなし、完全守護は約束できないと言ってある。協力要請は出したがNA。黄泉を開いてマガツヒを返すため、それに伴う太陽神の疲弊をなくすため、神力の高いお前をサキにつけたんだYO。それだけだ。サキは納得して来たわけだからアヤが治したところで、こちらに恩を着せることはできないYO? どうせサキは怪我をしたらアヤに助けを求める。それは我々東が介入する話じゃあない」
ワイズがサキとの契約内容を話し、みーくんはため息をついてプラズマを仰いだ。
「だとよ、紅雷王。こっち方面で罪を軽くすんのは難しそうだ。俺としては、問題があるのは……」
みーくんがそこまで言いかけた時、ルルと逢夜が入ってきた。
後ろに少女を連れている。
「サヨ!?」
プラズマは驚いて二人の後ろに立つ少女を見つめた。
ルルと逢夜の後ろにいたのはサヨだった。
サヨは居づらそうにはにかみながら部屋の中へ入ってきた。
「なんだ? お前は呼んでないがNA」
「あ、あたしはプラズマくんを巻き込んだ者として、この交渉に参加する!」
サヨはまっすぐワイズを見据え、はっきりと言った。
「お、おい……」
プラズマが慌て、逢夜が口を開く。
「俺の親族だ。いるくらいいいだろ? まあ、今回は俺もルルも勝手な行動をしたよな。今回は俺が復讐心に負けて弟の更夜をおかしくしちまったから、サヨが追い詰められて、戦に加わり、プラズマが追い詰められたサヨを助けるために動いたわけだ。おまけに人間の魂……望月俊也がさらわれたので、俺が極秘に動こうと言ったんだよ。望月だけで解決する問題だと。更夜は最初、否定していた。俺が無理やり動かしたんだ。俺が動いたからルルも動いた。つまり、俺が悪いんだ」
逢夜の言葉にワイズはため息をついた。
「あー、お前は罪神だNA。勝手に動いていたんだからNA。偉そうにモノを言うんじゃねーYO」
「だが……あんたは俺が動いていることに気づいていたよな? 俺を野放しにした理由はなんだ?」
逢夜はまっすぐにワイズを睨む。
「別にお前はどうでも良かったからNA。ただ、望月更夜を追い詰めた件に関しては許せないNA。お前らは兄弟だが、北と東だ。東が勝手に北と同盟を組んだかのようになった。責任は取らせる。ただ、紅雷王、今回は更夜だけ器用には救えなかったんだろうがYO」
「そうだよ。あんたのとこの望月が巻き込んだから抜け出せなくなった。逢夜を放置したお前もどうかと思うけどな。更夜は逢夜に凍夜討伐を命じられ、困惑しながら一度、断っているんだ」
プラズマは攻撃を始める。
「はっ! それを持ち出すのかYO。それで罪の相殺をすると?」
「そうだ。むしろ、これのせいでサヨと俺も動いた。さらわれたサヨの兄も結局、お前らは助けられてないし、剣王軍の望月も入り込んで望月のくくりじゃなくなった」
「あー、夢夜のことかYO。剣王がマガツヒ討伐のために送り込んだらしいNA。太陽神も『K』も全部望月。嫌になるぜ。まあ、それを含めて罪の度合いは封印刑か? 何があろうと、天御柱とぶつかった事実、アヤが勝手にメグを動かした罪はこれとは別だ。強制ではなく、時神の判断だろうが。サヨは関係ないんだ。時神が動く理由はないNA」
ワイズの言葉にプラズマは唇を噛み、下を向いた。
明らかに封印罰は重すぎる。
封印罰は他神の神力を巻かれ、暴走した神を消すためにあったという謎の空間に閉じ込めておくという重い罰。
他の神の神力が逆流し、痛みと苦しみに弱る。気絶すれば千年は寝てしまうかもという、酷い罰である。
プラズマが一度、これで酷い目に合っていた。
「俺が封印刑になったら、リカの守護を考えないといけない。リカを差し出すわけにはいかないからな」
「まあ、リカを差し出せば罪はなくなるがNA」
「一つ言っておく。俺には太陽神の力があるようだ。この太陽神の特性が守護本能に働いた可能性がある。お前、隠してんだろ? 俺の特性、知ってるんだろ?」
プラズマが試すように言い、ワイズの表情が消える。
「……今、知ったねぇ……。お前が気にすることじゃねぇYO」
「それも込みで今回の罰を考えろよ。神はデータに従う。俺は従ったはずだ。データに従った場合、自己判断ではないよな? つまり、重罪にはならない。剣王がそうだったよなぁ?」
「……アマテラスめ……アマノミナカヌシめ……。紅雷王、お前には太陽神の力はない。時神のはずだろ? 狂ったのか?」
ワイズはわずかに怒りを滲ませたが、変わらずにプラズマを挑発する。
「……プラズマくんは狂ってないよ。太陽の力があるんだと思う……。でさ、今、あたしの力に気づいたんだけど……」
サヨが小さくつぶやきながらワイズをまっすぐ見据えた。
「あたしね、時神の力、持ってるみたいなんだ」
サヨの発言にプラズマとワイズが同時に驚き、立ち上がった。
「お前は『K』だろうがYO! てきとうなこと、言うんじゃねぇ!」
「……てきとうかどうかは、ちゃんと見てね」
サヨは神力を放出した。
時神特有の神力が空間に充満する。まだまだ未成熟な力。
不安定。
だが、確実に時神の力だった。
「はあはあ……すごい疲れるな。あたしはね、時神再生神……。時神の神力を安定させる神! 破壊神から皆を守る力を持つ……らしいよ」
「……なんだと……」
ワイズは拳を握りしめた。
プラズマが言う先の言葉も予想し、舌打ちをする。
「……ワイズ。と、いうことは、俺は……『データに従い、時神を助けるために動いた』わけだな。悪いことじゃあない。サヨと更夜を助けるために動いたんだ。その過程で天御柱と戦うことになった。あの時、俺はいきなり攻撃を仕掛けたわけじゃない。通してほしいと頭を下げたんだ」
「あー、だな。確かに頭、下げていた」
みーくんが答え、ワイズはため息をついた。
「そうかYO……。重罪ではなくなったNA 。冷林と私が話す内容になったか。冷林が時神を管理しきれていなかったことを確認することになった。おしかったNA。今回はただの喧嘩じゃなかった。マガツヒが外に出た事件だ。世界滅亡に繋がる。剣王も慌てて抑え込みに動き、霊的太陽もマガツヒの反対勢力として動いた。壱の守護が仕事である私も当然、動かなければいけなかった。お前を責め立てたこと、申し訳なかった」
ワイズが謝罪し、プラズマはわずかに眉を上げた。
「あんたも、大変だな。本当に後で不利になるような状況を作らない」
「はっ! どうだか。今回は冷林と私とお前でお前の罰を決める。交渉は終わりだYO」
ワイズはどこか悔しそうに解散宣言をした。
リカはワールドシステムから出られず、ただ浮遊していた。
「そういえば、入れるけど、出られたことない……」
「やあ。また迎えにきた」
メグの声がし、リカは振り向く。
「ああ、メグ……一つ聞いていい?」
リカは振り返りながら、メグに尋ねた。
「……ん?」
メグは首をかしげつつ、リカをふわりと浮かせ、当たり前のようにワールドシステムから外へと連れ出した。
「それ! ねぇ、それはどうやってやってるのかな? ワールドシステムから出る方法がわからないの」
「……? たぶん、『K』の力……。あなたにはない」
メグが疑問を顔に浮かべながらそう言い、リカは眉を寄せた。
「マナさんにはあるよね?」
「それは知らない。それより、ちゃんと黄泉を出せたんだね」
「あ、そう? 出せたの? あれ、マナさんがやったんだよ」
「……? まあ、いい。そろそろ、サヨの世界に着く」
メグはいつの間にか宇宙空間を浮遊しており、ネガフィルムが絡まる場所にたどり着いていた。
「……ほんと、いつも不思議」
リカがつぶやいた時には、もうサヨの世界へ入れられていた。
メグは仕事が終わるとすぐにいなくなってしまった。
リカはサヨの世界へ入り、白い花畑を越えて大きな屋敷へと入った。部屋はかなり賑やかだった。
沢山の人がいる雰囲気。
「あ、あの……」
リカが部屋に入ると栄次やアヤ、更夜だけでなく、沢山の望月家が笑顔で話していた。
「これは……?」
「あ、リカ!」
アヤと栄次と更夜がリカに気づき、近づく。
「無事か? リカ……。これから探しに行くところだった。お前が黄泉を開いたから、マガツヒは消えた」
栄次が安堵の表情を浮かべ、怪我をしていないか確認してきた。
「怪我はしてません。今回は……あの、プラズマさんとサヨは……」
「……」
三人が同時に困惑した顔となり、楽しそうに遊ぶルナとスズに目を向ける。
「ああ、プラズマは今回の件でワイズ軍を乱した。罰が発生する。アヤが今回の騒動で海神を呼んでしまったこともワイズが許可しておらず、罪になるが、おそらく、プラズマが代わりに……」
栄次が答え、リカは真っ青になった。
「サヨはそのワイズとの交渉についていったらしい。サヨを今から連れ戻すことはできず、困っている。だが、交渉にはお兄様がいる。なんとかしてくださるはずだ」
更夜が冷や汗を拭い、珍しく慌てていた。
「そ、そういえば更夜さん、元に戻ったんですね!」
「ああ、お前達のおかげだ。ありがとう……。娘や妻に会えたんだ。ほら……あそこで、明夜と話している……」
「……良かったですね」
リカは楽しそうに話す三人を見て、優しい笑みを向けた。
しかし、プラズマとサヨが気になる。
「皆で壱に一度戻ってプラズマとサヨを待ちましょう。ルナに扉を出してもらう。ルナはこないだから扉が出せるんでしょう? 霊は連れていけないから更夜とルナだけね」
アヤがそう言い、更夜が頷いた。
「ああ、ルナは扉を出すだけにしてもらう。今、楽しそうに笑っているからな」
更夜はルナを愛おしそうに見てからアヤに目を戻す。
「では、俺達はあちらに戻ろう。リカ、無事で良かった……」
「はい」
リカはとりあえず返事をし、ルナを呼ぶ更夜を眺めた。
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(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」
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花は咲き、月は沈む
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