リカを守れ!

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 アヤ達はワイズの城から外に出て、鶴が引く駕籠の中にいた。
 「更夜、ルナの時間を巻き戻すわね……。怪我の部分だけ」
 アヤが悲しそうにそう言ってから、更夜の膝に横たわるルナに目を向ける。
 ルナは意識を失っており、目には涙がたまっていた。
 「更夜、やるわよ」
 「あ……ああ。頼む」
 ぼんやりしていた更夜は慌てて返事をする。アヤは慎重に時間を戻し始めた。ルナの傷はすぐに治った。たいした傷ではなかったらしい。
 「……ルナは責任をとろうとした」
 傷が治ってから、ルナはすぐに目を覚まし、すぐに責任の話をし始めた。
 「とれたのかな……。わかんない。ルナは……」
 「ルナ!」
 更夜はすぐにルナの小さな体を抱きしめる。
 「おじいちゃん?」
 更夜がいると思わなかったルナは目を見開いて驚いた。わけがわからないまま、唇を震わせる。
 「おじいちゃん……なんでいるの?」
 「ルナ……ごめんな……」
 「なんでおじいちゃんがあやまるの? ルナが……責任をとろうとしたらプラズマがお仕置きされちゃった。ルナ、もうわからない。ルナが悪かったはず。それなのに、皆ルナを守ろうとする」
 ルナは更夜を純粋な目で見た。
 「それは……お前が一人じゃないからだ。皆、お前の笑顔を守りたい。俺もそうだ。お前は大切な俺の娘。俺はお前を守りたくて厳しくしてしまった。厳しくしすぎたせいでお前は力が制御できなくなり、俺に嫌われたと思ったのだろう? ……ごめんな。お前を殴ってしまったこと……後悔している」
 更夜はルナを優しく撫で、ルナは更夜に抱きついた。
 「おじいちゃんがいなくなったら、ルナ、悲しい。おじいちゃん……ひどいこといっぱいしてごめんなさい。許してください」
 ルナは涙を流しながら更夜に心から謝罪した。
 「……ルナ」
 「どうしたらいいですか?……どうしたらルナは許されますか? 責任をとりたいです」
 今回の高天原会議で体だけではなく、ルナの心もとても傷ついていた事に更夜達は気づく。ルナは責任の話ばかりしている。
 「ルナ……」
 更夜はルナの手を取り、目を見て言った。
 「いいか、ルナ。わかりやすく説明する。まずな、俺はお前の代わりにお仕置きを受ける予定だった。だが、プラズマが上の神から、プラズマがお仕置きを受けるのが正しいのではと言われ、プラズマは頷き、お仕置きを受けた。その後、俺はプラズマに自分を救いだしてほしいと言われた。つまり、今から俺達はプラズマを助けに行かなければならない。となると、誰もお仕置きを受けていないことになる。だが、プラズマ達が世界を元に戻しているので、責任はとっているんだ」
 更夜の説明でルナはなんとなく理解した。責任はプラズマがとったらしい。
 「でも、ルナはなんか心がモヤモヤする」
 「そうだな。だが、ルナは心からあやまった。もう反省もしたようだから……」
 「ルナが悪いのにモヤモヤする」
 ルナは自分が責任をとれていないことを気にしていた。
 「……ルナは俺に似て、しっかりケジメをつけたいのか。わかった。なら、プラズマを救いだし、すべて終わったら……お仕置きをすることにしよう。それでいいか? ルナ」
 「……はい」
 ルナが素直に返事をし、更夜はもう一度、ルナを抱きしめた。
 「本当はいい子なんだ。お前は悪い子じゃない。俺はお前をもっと信じることにする」
 「おじいちゃん……」
 ルナは更夜に泣きつき、自分の気持ちをしっかり言った。
 「怖かった」
 「わかっている……。ちゃんと向きあったお前はえらい……」
 「おじいちゃん……ルナはおじいちゃんが大好き。おじいちゃん、いなくならないでね」
 ルナが更夜を離さないよう、しがみつき、更夜はルナに優しい顔を向けた。
 「ルナ、プラズマに何か言われたか?」
 話が一段落したあたりで横から栄次がルナの頭を撫でた。
 「栄次、ルナ、すごく怖かった。いっぱい叩かれて、血が出て、痛かった」
 ルナはプラズマの言った通り、栄次になぐさめてもらおうとした。栄次は更夜を見てから、ルナを抱えて膝に乗せ、優しく抱きしめる。
 「そうか、かわいそうにな」
 更夜とアヤ、リカが眉を寄せる中、栄次はルナの目を見ながら、なぐさめつつ、過去見をおこなう。
 先程の過去を慎重に見ていく栄次。ワイズと剣王に注目し動きを観察した。二人は不自然なほど、プラズマを封印したがっている。
 だが、二人の言っている事は正しく、何かを隠していても表には出ていない。
 「何がしたかったのだ……」
 栄次は焦りながらワイズと剣王の部分の記憶を何度も繰り返し見た。太陽の姫を呼ばなかった理由は、太陽の姫サキはルナへの暴行を黙ってみているわけがなく、邪魔だったからだ。太陽を呼ばないから対の月も呼ばなかったということらしい。
 そのうち、机の一番奥にいた高天原北の主、北の冷林(時神達の上司)が何も行動をしていないという違和感に気づいた。
 プラズマはそれに対し、なぜ動かないのかと冷林を叱っている。
 西と東は北が決めた罰を聞く立場。冷林がプラズマからの報告を聞き、罰を決め、それに対し、冷林が高天原の面々に意見を求め、会議を終わらせるのが普通だ。動かないのは、やはりおかしい。
 栄次は冷林を眺める。冷林は顔に渦巻きがついているだけの人型クッキーのような風貌。
 表情がまるでなく、わからない。だが、ルナを必死でかばうプラズマを見、どこか焦っているようにも見えた。
 「冷林は……東と西に会議を任せているのか……。何か、知っているな?」
 栄次がそうつぶやいた時、リカの抜けた声が響いた。
 「あれ? なんか、かわいいぬいぐるみが飛んできた! なんだろ……不思議な水色のぬいぐるみ」
 リカの声でアヤ、栄次が蒼白になり、慌ててリカを見る。
 「リカ! 冷林よ!」
 「え?」
 「高天原北の主……俺達の上に立つ神だ……」
 アヤと栄次の言葉を聞いたリカは、なぜか慌てて冷林を窓から放り投げようとした。
 「リカ! なにしてんの!」
 「爆弾持ってる気分になっちゃって……ごめん!」
 アヤに止められ、リカは動揺しながら、アヤに冷林を押し付けた。

(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界譚」Where stories live. Discover now