(2020〜)SF和風ファンタジー日本神話「TOKIの世界...

By goboukaeru

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Fantasy and Japanese-style sci-fi story! This is a fantasy novel and fiction. Don't criticize me. Comments in... More

リカの世界書
出会ってはいけない
選択肢
抜け出せ!
新たな世界
記憶をたどれ!
弐の世界へ!
ワールドシステム
戦いはまだ
壱と伍の行方
最終戦
エピローグ
TOKIの世界譚 栄次編 あらすじ
月夜は過去を映す
栄次はどこに?
栄次を探せ!
栄次と更夜
弐の世界の真髄へ
栄次の心
エピローグ
TOKIの世界譚 更夜編あらすじ
月の女神
すれ違う二人
責任とは
リカを守れ!
更夜の兄様
巻き戻せ!
真実へ
最後まで戦え!
最終話
TOKIの世界譚 サヨ編あらすじ
うつつとも夢とも知らず
夜の子孫達
戦いは始まる
夜の一族に光は
鬼神の更夜
闇の中に光を
黄泉へ返せ!
心の行く先は
花は咲き、月は沈む
最終話
TOKIの世界譚 ルナ編あらすじ
ルナはふたりいる
時空が歪む
チルドレンズドリーム
歴史神の隠し事
月は隠れる
憐夜とライ
進む先は
ルナの思うこと
子供は知っている
すべての結果は?
最終話

竜宮へ

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By goboukaeru

 リュウはすぐに襲いかかり、プラズマのDPをなくし始める。
 「俺様はハードモード竜宮に入れるか試すツアーコンダクター。手加減したら、おめぇらは中にいるあいつに、瞬殺される。ワンショットキル」
 プラズマのDPが減り、再び血にまみれた時、アヤは慌てて時間の巻き戻しを行った。
 「へぇ、タイミングがいいな」
 リュウは感心したようにアヤを見た後に、嘲笑しながら言う。
 「だがっ! 弱すぎるんだよ!」
 リュウは再び飛びかかったリカの槍をひしゃくで受け止め、プラズマを水流で叩いた。

 今度のプラズマはもろい結界(バリア)で水流の衝撃をやや緩和させる。
 「イッテェっ! ムチ打ちされてるみたいだ。結界で弾いたはずなんだが......」
 「結界なんて意味ねぇよ。貫通させてやるからな......おっと」
 リカが無意識に浮遊させた槍がリュウを襲った。リュウは危なげにかわし、リカに強い神力を向ける。
 「お前、まだ神になって一年目だろ? 神力が弱すぎる」
 「......ひっ。な、なに......この力」
 リカが強い神力に震え始め、プラズマは光線銃を放ち、リュウをリカから離した。 
 「なんだ? てめぇ、攻撃がぬるいぜ、未来神。本気をだしやがれ」
 リュウはプラズマをてきとうに挑発する。
 「ちっ、避けられた......」
 「もう一発水流を当てて、戦意喪失させてやるぜ」
 「そうはいくかよ! アヤ、早送りしろ!」
 プラズマはアヤに突然叫んだ。アヤは肩を跳ねさせて驚くと、プラズマに早送りの時間の鎖を巻く。プラズマは水流をすばやく避け、着地した。
 「アヤに頼りすぎんのはダメだ。中の龍神と戦うことになった時、アヤの神力がないと死ぬ」
 プラズマはひとりつぶやくと、神力をやや解放した。
 うねる水流を目で追い、なんとか避けていく。
 「逃げるだけじゃ、俺様にダメージは与えられないぜ」
 リュウはさらに水流を出現させ、プラズマを襲う。プラズマは全部を避けきれず、何発か当たってしまった。
 「うっぎぎぎ......」
 歯を食い縛り、痛みに耐える。
 「イテェだろ? 龍神の攻撃はイテェのが基本だ。どうだ? やめるか? 精神壊れんぞ」
 「プラズマ......」
 アヤが怯えながら時間の巻き戻しを行おうとするが、プラズマが止めた。
 「多用するな。あんたがいないとこれからがもたない」
 「で、でもっ......血が......」
 アヤは震えながらプラズマを見る。
 「大丈夫だ」
 「そんな......」
 アヤが手をおろした刹那、リカがリュウに向かい再び槍の攻撃をおこなった。
 「おりゃああ!」
 「はあ......おめぇもあれ、食らいたいのか? のたうち回るくらい痛いんだぜ」
 リュウは苦笑いをしつつ、リカの槍を軽々とまた受け止める。
 「......うう......あ、あなたは......女性に酷いこと、できないんですよね? な、なら私が頑張れば......」
 リカは震えつつ、無意識に無形状の槍を多数再び浮遊させていた。
 「はあ、おめぇな、ケンカしたことねーだろ? 本気で俺様を倒そうとしてるか? ひとつ、言っておく。俺様はハードモード竜宮に入れるか試す役目。今まで弱い女が来たことはねぇ。手加減はしちまったかもしれねーが、俺様は全部負けてる!」
 自慢げにリュウは言う。
 「だけどな、こんな、弱いやつは初めてなんだ。こんなの、どう頑張っても負けられねぇぜ」
 リュウは飛んでくるリカの槍を軽く避けつつ、プラズマに水流をぶつけ始めた。
 「未来神のDPをゼロにしたら、あんたらの敗けだ。あいつは戦い慣れてないから時間の問題だぜ」
 「そうはいきません! 私はそんなに弱くないです!」
 リカが睨み付けてくるので、リュウはため息をつきつつ、口を開く。
 「じゃあ、一発、弱いやつ食らってみろや」
 「......うう......いいですよ......、く、食らってやりますよ!」
 リカが震えながら叫び、リュウは目線を合わせず、困惑しながら弱い水流を出現させる。
 「痛ぇぞ、泣くなよ。顔はやめといてやる」
 「リカっ! よけろ!」
 プラズマは叫んだが、リカはリュウのひしゃくを受け止めているため、動けない。
 リカは思い切り、頭から水をかぶった。
 「ひぃぃぃ! って......え?」
 「やべ......弱すぎた。コントロールすらうまくできなかったぜ」
 リュウがつぶやき、リカは目を丸くする。リュウの水流が弱すぎて、リカは頭から水をかぶり、びしょびしょになっただけだった。

 「チャンスだ。アヤ!」
 「......は、はい......」
 プラズマはアヤを呼び、アヤはプラズマに早送りの鎖を巻く。
 プラズマは光線銃をリュウ目掛けて発射させ、リュウのDPを減らし、さらにリュウのふところに入り込み、神力を拳に乗せ、打ち放つ。
 「よくもさっきはバカスカやってくれたな! 倍の痛みを与えてやる......」
 「マジかよ!」
 リュウはリカのことで頭がいっぱいになり、プラズマの攻撃に気づかず、光線銃に当たり、さらにプラズマの強烈な拳が顔面に入り、吹っ飛んでいった。
 砂浜に砂を撒き散らして激突したリュウはDP1で倒れこむ。
 「えっと、えっと......えいっ!」
 リカは迷いながら無形状の槍でリュウを軽く叩いた。
 リュウのDPはゼロになり、竜宮が時間を戻し始め、すべてが元に戻る。
 「ちくしょう......やられた」
 リュウは全回復し、悔しそうに頭をかいた。
 「リカ! 大丈夫か!」
 「リカ!」
 プラズマとアヤがリカに寄り、心配しつつ、怪我の有無を確認する。
 「あー、そいつは大丈夫だぜ。水を頭からかぶっただけ。くそ、女の子に優しくしたかっただけの俺様の隙をついて、ヤりにくるとか、最悪だぜ、てめぇら。地の底に落ちて飛龍(ひりゅう)にボコられちまえ!」
 リュウは悪態をつき、プラズマが苦笑いをした。

 「いやあ、すまん。なんかイラついて。じゃ、『入城券』渡せよ」
 「ほら、死ぬなよ。女ふたりが危うい。てめぇが守れよ、紅雷王(こうらいおう)」
 リュウは乱暴に紙を三枚取り出すとプラズマにかざす。
 「その名前で呼ぶんじゃねぇよ!」
 プラズマは怒りながら、入城券を奪い取った。

 『入城券』を持った三人が一息ついたところで、海の中から龍神の使い、カメが現れた。
 まいこさんのような格好をしている黒髪の女なため、カメだとは気づきにくいが、緑の甲羅をもっているから、よく見れば気がつく。
 「入城券を確認するさね!」
 「あ、ああ、これだ」
 カメに問われ、プラズマは慌てて券を見せた。
 「はーい、じゃあいくさね~」
 気の抜けた声を出したカメは海へ飛び込んだ。
 「え? ちょっとまって、竜宮は?」
 リカが戸惑いの声を上げ、アヤは首を傾げる。
 「まさか、海の中にあるなんて言わないわよね」
 「海の中にあんだよ、竜宮は。カメかツアーコンダクターがいないと溺れるようにできてるんだ」
 プラズマが答え、アヤは納得したが、リカはまだまだ慣れていないのか、頭を抱えていた。
 「一体、どうなってるんだろ......」
 リカの不安そうな顔を横目で見たリュウはため息をつく。
 「てめぇと、おめぇは高天原に入れる神格がねーんじゃねーのか? オーナー天津(あまつ)から怒られるぞ」
 リュウはアヤとリカを指差し、睨み付けながら言った。
 「ま、まあ、俺の連れということで、入ったからセーフだ。たぶん」
 「セーフかねぇ? 俺様は知らねーぞ。少女ら、怪我すんなよ」
 なんだか優しい言葉を言ってきたリュウは、手を振りながら去っていった。
 しばらく、リュウの背中を眺めていた時神達は、カメの声で我に返る。
 「とりあえず、早くするさね! 海に飛び込む!」
 海からちらりと顔を出したカメに叱られ、時神達は慌てて何も考えずに海に飛び込んだ。
 
※※

 栄次は霧の中を歩いていた。
 辺りは真っ白、前は見えない。
 だが、スズの声が聞こえるため、前に進めた。
 進んで行くと、森の中へ出た。
 森はどこか懐かしい雰囲気がし、夕日が栄次を照らす。
 「ここは......」
 栄次は少し開けた場所に木の棒が刺さっているのを見つけた。
 木の棒の前に白い花が供えられている。
 「......墓......」
 「そう、私の墓かな?」
 栄次がつぶやいた刹那、目の前に忍装束を着た黒髪の幼い少女が現れた。
 「す......スズ」
 栄次は何百年ぶりに彼女に会ったため、体を震わせる。
 「紅色のくちなわ、久しぶり。蒼眼(そうがん)のタカに会いたい? もう一度、『殺しあいたい』?」
 スズは子供らしい顔で笑うと、栄次を見上げた。
 「......いや、助けたい。助けてやりたい。あの男の過去は壮絶だった。......そして、お前も救ってやりたい。苦しかっただろう? 痛かっただろう?」
 栄次はスズの頬に触れる。
 「そうだ。あんたはそういうやつだ。私にいつも優しいんだ」
 「ああ......更夜を止めねばな」
 栄次は墓を通りすぎ、夕焼けの森を歩き出した。
 「......ふふ。心が『過去に戻っている』。あんた、今は『令和』なんでしょ? くくく」
 スズはおかしそうに笑うと、栄次の後ろを、距離をとり、歩き始める。ちょうど三尺。
 九十センチほど。
 女は男の三尺後ろを歩く。
 本来なら刀が当たらない、女を守るための距離。
 敵から女を逃がすための距離。
 しかし、彼女はそのために離れたわけではない。
 「いつ、殺されるか、わからないからね......。もう、疲れたよ、栄次様」
 スズは、今度、悲しそうに目を伏せた。

  カメに連れられて海の中を進む。不思議と呼吸ができ、何もしていなくても海底へ勝手に向かっていく。
 海の中は澄んでいて、とてもきれいで、磯の香りはするものの、生き物が何もいなかった。
 いるのは人型ではないウミガメだけだ。
 「わあ、かわいい」
 呑気なリカが横を泳ぎ去るウミガメに声を上げる。
 「あー、そのカメは、イケメンなカメさね。人型になったらかっこいい方」
 カメがどうでも良い情報を横から入れ、リカは苦笑いを浮かべた。
 「お、男の人? ......だったんだ」
 リカがぼんやりつぶやき、プラズマはため息をつく。
 「いやあ、もうあんな痛いのは勘弁だな」
 「プラズマさん、ごめんなさい。なんか戦えなくて」
 「私も......ごめんなさい。怖くなってしまって」
 リカとアヤが申し訳なさそうにあやまるので、プラズマは頭をかいて再び息を吐いた。
 「あんたらがケガしなくて良かったってことにするさ。それより、アヤ、竜宮が近い。栄次の過去が見えたりするか? ここに来たかどうか。竜宮は対象の神の過去も映すから」
 プラズマに問われたアヤは眉を寄せる。
 「栄次がここに来たかどうかの過去は見えないわね」
 「リカは見えるか?」
 アヤの返答を聞いて、プラズマは今度、リカに尋ねた。
 「なんにも見えませんね」
 「......まさか、竜宮にいねぇってことあるか?」
 プラズマはアヤを不安げに見る。
 「......どうかしら。過去に戻れる方法は竜宮を使うしかできないはずでしょう?」
 「ああ、そのはずだ。やっぱ行くしかないか。情報がなさすぎるんだ」
 「......プラズマ......あんな痛い思いしたら、もう嫌よね......。あんなに血が......」
 アヤが泣きそうになっているので、プラズマは苦笑いを浮かべた。
 「ああ、怖いぜ、正直な。だが、俺がやるしかねぇから」
 「......ごめんなさい」
 アヤは手でプラズマの頬を軽く触った。プラズマはアヤに触られ、頬を赤くすると軽く笑う。
 「そ、そんな顔すんじゃねーって。もう着くぞ」
 気がつくとかなり深くまで潜っており、光が届かないところまできていた。辺りにはなぜか『ちょうちん』が浮かんでおり、あかりが灯(とも)っている。
 大きな赤い鳥居がちょうちんの先に見え、その奥に大きな門があった。門の奥には天守閣が見える。
 竜宮だ。 
 「結界を抜けるさね~」
 カメがそう言うと、アヤ達は突然地面に足を着けていた。水の中の感じもなくなり、地上に出たかような状態で、天井にはなぜか青空が見える。
 「不思議すぎる......」
 リカは状況についていけず、いつまでも戸惑っていた。
 カメに連れられ、門をくぐり、しばらく歩くと遊園地のような遊具があり、レジャーランドの雰囲気が出ている。中にはどうやって乗るのかわからないような乗り物まであり、神の世界らしさを感じた。
 カメは遊具を通りすぎ、竜宮本館、天守閣の前で立ち止まる。
 「はいはい、この自動ドアから中に入ってくださいねぇ。ハードモード中なので、龍神は基本襲ってきますので、ご注意を」
 カメはその一言だけ言うと、逃げるように去っていった。
 「......オイオイ......受付、従業員、ツアーコンダクターすら同行しないのか......」
 プラズマはあきれた声をあげ、アヤはため息をつく。
 「もう、嫌な予感しかしないわね」
 三人はとりあえず、自動ドアから竜宮ロビーへ入り込んだ。
 ロビーは薄暗く、誰もいない。
レジャー施設なのか廃墟なのかわからない有り様だ。
 受付には受付係はおらず、汚い字で行く方向の矢印が書かれていた。矢印を追うと、階段にたどり着き、どうやら階段をのぼれということらしい。
 「天津(オーナー)がこんな酷い管理、しないと思うんだよな......。こりゃあ、勝手にやってんな」
 プラズマがつぶやき、アヤ達は震えながら階段をのぼる。
 のぼった先は廊下になっており、片方が全面ガラス張りで、竜宮の遊園地が見えた。
 室内アトラクションもあるようだが、どこも稼働していない。
 恐々先へ進むと、一つだけやっている場所があった。
 その名は『ドラゴンクワトロ』。
 「ドラゴン......」
 なんだか危なそうな名前のアトラクションだ。
 「ん!?」
 ふと、プラズマの目に栄次が映った。
 「プラズマ?」
 アヤとリカが心配する中、プラズマは意識を集中させる。
 「栄次......どこにいる」
 ......なんで、未来しか見えない俺に過去が映る......。
 栄次は夕焼けの森を歩いていた。雰囲気は荒々しく、剣気が辺りに舞い、後ろから黒髪の少女が歩いている。
 ......過去......じゃないのか?
 ひょっとすると......『未来』のことなのか?
 プラズマは頭を抱え、つぶやく。
 「俺に過去が見えるわけがない。俺は未来しか見えない。過去を映す竜宮にいても、それは同じだ。じゃあ、この栄次はなんだ? 栄次、どこにいる......」
 「プラズマ......もしかして本当に栄次は竜宮から過去に入っていない?」
 「わからない。いないかもしれない......」
 プラズマが不安になってきた所で、麦わら帽子をかぶった、ピンクのシャツにオレンジのスカートを履いた、やや地味めの少女が、けん玉をやりながら階段をおりてきた。
 「あ、お客さん? 二階へご案内しまーす」
 「あ、ちょっと待って......」
 アヤの制止もむなしく、三人は地味な龍神に背中を押され、階段をのぼらされてしまった。

 栄次が夕焼けの森を歩いていると、突然夜に変わった。
 場所も変わり、目の前に屋敷が見える。あきらかに『令和』の時代にはない空気だ。
 まず、あかりがない。
 栄次が歩くたびに、時間が戻っていく。
 「屋敷に戻らねば」
 栄次には違和感がないのか、そのまま屋敷の中へと足を進めた。
 当たり前のように、『いつも』のように屋敷へと帰る。
 この屋敷はどこかおかしい。
 なぜかと言うと、手柄をたてた者達を、殿がわざわざ離した屋敷に住まわせているからだ。
 殿に貢献した者がなぜか遠くに住まわされるのか。殿は腕のたつ者の中に、『忍』が混ざっているかもしれないことを恐れていたのだ。
 栄次は殿のために尽くしたのだが、遠くの屋敷に住まわされていた。
 そして、栄次は人を殺さないことで有名だった。失神させるだけで『首』をとらないのだ。
 失神させた武将の首は手柄をたてたい者が奪うため、栄次のまわりには常に『血に飢えたケモノ』達がいる。
 栄次はヘビのように避けていき、剣撃も鉄砲も当たらない強者として、『紅色のくちなわ(ヘビ)』という名で恐れられていた。
 「このまま、何も起こらなければ良いのだが」
 栄次は小さくつぶやくと、屋敷の廊下を歩き、自室に帰る。
 この屋敷は長屋のようになっており、障子扉一枚で部屋が仕切られていた。
 兵達の士気をあげるためか、遠くに住まわされた罪滅ぼしかはわからないが、この屋敷には男達を癒すため、女達が住まわされており、毎夜、女が夜遊びに部屋に来る仕組みである。
 殿が女好きであるため、こんなことになっているらしい。
 「今夜も憂鬱だ。さっさと寝るか」
 栄次はそんなことを思いつつ、着物を脱ぎ、畳の上に横になった。
 脱いだ着物をかけ布団がわりにかけ、目を閉じる。
 「......もし」
 ふと、障子扉の向こう側から消え入りそうな少女の声がした。
 「ああ......」
 栄次は頭を抱えながら、起き上がり、皿に入れた灯(とも)し油に灯芯(とうしん)を浸し、火をつける。
 この時代はキャンドルよりも火が弱い灯し油を使っていた。
 栄次は毎夜、やってくる女を無視できず、毎回部屋に入れてしまう。なにかするわけでもなく、話して隣で寝てもらうだけだ。
 「今、開ける」
 栄次はそう言うと、障子扉を静かに開ける。
 目の前に三つ指(親指、人差し指、中指)をついて頭を下げている少女がいた。赤い着物を着ている。
 「......ずいぶんと......幼いな」
 栄次が驚くと、少女は小さく縮こまった。どうやら、男の裸を見たことがないようだ。
 栄次は困惑しつつ、かけ布団がわりの着物を羽織る。
 「すまんな、怖がらせるつもりではなかったのだ」
 「......はい」
 少女は素直に栄次の部屋に入ってきた。
 「お前、いくつだ?」
 「......はい、七つでございます」
 少女は栄次と距離を取りつつ、栄次の問いに答える。
 「名は?」
 「スズでございます」
 「......親に売られたのか」
 「......はい」
 少女、スズは顔が険しくなる栄次に怯えながら小さく言葉を発していく。
 「心配するな、なにもせん。かわいそうに......俺が横で一緒に寝てやろう」
 スズは目に涙を浮かべると、素直に栄次の隣で横になった。
 「寒くはないか?」
 栄次はスズの頭を撫で、予備の着物をかけてやった。
 スズの胸あたりをゆっくりと優しく叩き、栄次はスズを寝かしつけ始める。
 しばらくして、再び栄次が声をかけた。
 「......子供がこんな夜更けまで起きていてはいかぬ」
 スズは栄次の優しい声に何とも言えない顔をする。
 「眠れぬのか?」
 栄次はスズにあたたかい笑みを向け、スズの胸辺りをまた、軽く叩き始めた。
 「大丈夫だ、安心しろ」
 よくわからない感情がスズを覆う。
 スズは声には出さず、心でつぶやいた。
 ......栄次様は優しい。
 平和な時代のお父様って、
 こんな感じなのかな......。
 親の愛を感じたことのない彼女は、悲しき運命を辿ることになる女忍だった。
 少女はかけられた着物の下で小刀を握りしめた。

 竜宮は驚くほど静かだ。
 けん玉で遊んでいる謎の女龍神に上の階段をのぼらされ、時神達はわかりやすく怯えていた。
 「あら? 不在だね」
 女龍神が辺りを見回してから、時神達を見る。
 「ふ、不在なら、このまま出るよ。竜宮に用がなくなったからな」
 プラズマは冷や汗をかきつつ、女龍神にそう伝えた。
 「ふーん」
 女龍神がつぶやいた横で、アヤとリカが同時に何かに反応していた。
 なにかの記憶を見ているようだ。
 「アヤ、リカ......大丈夫か」
 「栄次の映像が見える......っ」
 「俺には見えない。だから、過去のようだな」
 プラズマが、過去をみているアヤとリカを見据えながらつぶやく。
 栄次は全身黒ずくめの幼い少女を寝かしつけていた。畳を重ねて寝ており、栄次が着ていた着物をかけ布団がわりにかけている。
 リカは寝にくそうだと思っただけだが、アヤは目を細めて言った。
 「戦国時代か江戸時代......かしら?」
 やたらと部屋が暗く、電気もない。ろうそくすらないようだ。
 「......栄次さん、優しい顔をしてるね」
 リカがつぶやき、アヤが答える。
 「そうね。誰なのかしら、この子供」
 ふと急に時間が飛んだのか、なぜか黒い少女は縄に繋がれ、弱々しく上を見上げていた。
 「......なに?」
 アヤが意識を集中させ、少女の前に立った人物の輪郭をハッキリさせる。
 「......っ、更夜?」
 少女の前で刀を持ち、立っていたのはサヨの先祖である更夜だった。
 何かを話している。
 話している内容はわからないが、悲しそうな表情の栄次が映った。少女は静かに目を閉じ、無表情の更夜が刀を振りかぶる。
 なぜか彼は目を怪我していた......。
 更夜は一瞬だけ、せつなげな表情をし、目を泳がせると、少女を......。
 「ひっ!」
 アヤとリカは同時に悲鳴を上げ、手を口元へ当てた。
 顔色が青くなり、震え、目に涙を浮かべる。
 「......アヤ、リカ! 大丈夫か! 何を......」
 プラズマが声をかけるも、アヤとリカは言葉がないのか、口をわずかに動かしているだけだった。
 そのうち、リカが口元を抑えたまま、胃液を吐き出した。
 「リカ......。おいっ!」
 プラズマはリカの背中を優しくさすり、アヤを優しく引き寄せる。
 「......何が見えた? 言いたくなきゃ言わなくていいが」
 プラズマは会話ができそうなアヤに尋ねた。
 アヤは目に涙を浮かべ、震えながら小さな声を上げる。
 「幼い......女の子が、更夜に首っ......」
 切れ切れに言うアヤの言葉でプラズマは理解した。
 「ああ、そうか。これは栄次周辺の当時の記憶だ。今じゃない。......ただ、平和を生きていたあんたらからしたら、かなりショッキングか......」
 プラズマがアヤとリカを落ち着かせつつ、けん玉の龍神を見る。
 「......で、あんたは俺達を襲わないのか?」
 「何言ってるの? 私は戦わないよ。こんな野蛮なゲームしない。君達、ラッキーだったね。他のヤバい龍神にも出会わず、飛龍も不在ならかなりのラッキー」
 「お、おう、そうか。な、なら良かった......。地味な感じの龍神もいるんだなあ......」
 プラズマは言葉の地雷を踏んだ。何かの単語にけん玉の少女龍神は青筋をたてる。
 「地味......地味って言った? 私は地味子じゃないっ!」
 なんだか突然怒り出した少女は唐突に意識を失い、その場に倒れた。
 「ちょっ......え? あ、お、俺が地味って言っちゃったからっ......ご、ごめん......。ていうか、何?」
 プラズマが慌てている中、恐ろしく強い風が吹き、風は倒れた少女に集まり、包む。
 すると、少女が突然桃色の髪へと変わり、頭にツノが生え、龍を模した創作着物に身を包み、現れた。
 「えっ......」
 さすがにリカとアヤも目を丸くし、意識を少女龍神へと向ける。
 少女龍神は表情がなくなり、冷たい瞳のまま、剣のようになった霊的武器「けん玉」で襲いかかってきた。
 「お、おいっ! ま、待て待て! なんだかわからねーが、ごめん! ほんと、ごめんなさーい!」
 プラズマがあやまりながら必死に逃げ、アヤとリカも、とりあえず戦う準備をする。
 「あの龍神......感情がなくなってるみたいだわ。まさか、二重神格......」
 アヤがつぶやいた刹那、プラズマが一撃でDP(ドラゴンポイント)をゼロにされていた。
 ゲームオーバーのはずだが、勝手にコンテニューさせられ、プラズマのDPはまた満タンに戻る。
 かまいたちがプラズマを切り裂き、剣のように固い水を纏わせたけん玉に斬られ続けた。
 「いてぇっ!」
 DPは何度もゼロになり、プラズマは痛みに悶え、血を流す。
 アヤとリカも容赦なく襲い、震えて動けない二人をかばうため、プラズマが飛び込んで身代わりになっていた。
 「信じ......らんねぇ......。強すぎる......」
 プラズマは何度も来る強烈な痛みに足を震わせ、動きが鈍くなったため、何度も無慈悲な攻撃を受け続けることとなる。

 「ぐあっ......がはっ......ごほっ......」
 反撃の隙すらない恐ろしい攻撃が続き、プラズマの精神も病んできた所で、何かが飛んできた。
 少女龍神は吹き飛ばされて、地面に叩きつけられ、意識を失った。元の黒髪になり、服も先程の地味めなものに戻った。
 「はあっ......はあっ......なんだ?」
 プラズマが肩で息をしつつ、アヤとリカをかばうように前に立つ。
 「そいつは大丈夫だ。感情を高ぶらせると地味子は攻撃的な神格が出るが、長くは持たない。超強ええから好きなんだがねぇ。もう終わりかあ。タイムリミットの神力の後半だったから、ぶっ飛ばせた。ははは~!」
 プラズマの目の前に赤い髪の荒々しい女龍神が現れた。
 豊満な胸を動きやすい袖無しの着物で隠し、鋭い目は赤色で、紫に金の龍が描かれたハチマキを頭に巻いている。
 何本もロープのように結わいている髪は長く、まるで龍のようにうねっていた。
 まずい雰囲気しか感じない。
 「ま、まさかっ......」
 ......こいつは一番会ってはいけない、アイツかよ......。

 赤い髪の女龍神は狂気的に笑いつつ、挨拶をした。
 「あたしは飛龍流女神(ひりゅうながるめのかみ)。飛龍だ! あー、あらためまして」
 飛龍と名乗った女は鋭い瞳をさらに鋭くし、言い放つ。
 「ようこそ、いらっしゃいました! レジャーランド竜宮へ! ドラゴンクワトロを選ぶとは、すばらしい選択!」
 飛龍は意気揚々と語る。
 「やべぇのに見つかった……」
 プラズマは慌ててアヤとリカの前に立った。
 「ゲームで死闘ができるんだ、さいっこうだと思わないか? クワトロ、すなわち、『よん』、『し』、『死』だ! アハハハ!」
 飛龍の高笑いにアヤ、リカ、プラズマは顔を青くする。

 「始めようか! ここは、特に過去が映りやすい場所だ。お前らなら時神の過去かなあ?」
 飛龍は高速で動きつつ、攻撃を始めた。炎を操るのか、雷を操るのか、閃光と真っ赤な炎が時神達を襲う。
 「アヤっ! リカっ!」
 プラズマはふたりをかばい、炎の中に入り込み、結界を張る。
 しかし、プラズマの結界はあっけなく崩れ、DPが一撃でゼロになった。
 勝手にコンテニューされ、DPがもとに戻る。
 「アヤ、リカ……」
 プラズマが全く動こうとしないアヤとリカに眉を寄せた。
 二人は飛龍を見ていない。
 「……記憶を見てんのか……。……ちっ」
 上から飛んできた炎のヤリがプラズマを貫き、DPがゼロになる。
 再びDPが回復し、プラズマのケガも治った。
 「あァ……これはまいるな……。いてぇのが何回も来る。生きた心地がしねぇ」
 しかし、動けるプラズマがなんとかするしかない。
 一方でアヤとリカは栄次を見ていた。静かな夜更け、栄次は月を見上げていた。辺りは暗くてわからないが、屋敷の庭のようだ。
 「更夜が消えた。あの男は……」
 今度は栄次の声が響いた。
 次第に人々の騒ぐ声が聞こえてくる。たいまつを持った男達が走り去った。
 「殿がっ!」
 「寄り添っていた女ごとやられた!」
 「誰がやった?」
 「わからぬ!」
 人々は騒ぎ、混乱している。
 その中、栄次は目を伏せ、ため息をつく。
 「殿がやられたか。無関係の女まで……このようなむごいことができるのは、あの男だけだ。息子はかろうじて生きていたか。殿のみの暗殺……だな。嫌な予感がする」
 そうつぶやいた栄次は、雲に隠れてしまった月を再び見上げていた。
 「……切れ切れすぎて、なんの記憶か全くわからないわ。だけれど、栄次が仕えていた殿が暗殺されたようね。……はっ! プラズマっ!」
 記憶を見終わったアヤがつぶやき、我に返った。
 「……っ! プラズマさんっ!」
 リカも我に返る。
 プラズマはDPが回復した状態で震えていた。死ぬ寸前まで痛めつけられ、回復するのを繰り返し、身体が痛みを拒絶し始めたのだ。
 「い……いやあ、あの男(栄次)の精神力の強さ……今更ながら尊敬する」
 そう言った瞬間に、プラズマは炎のヤリに刺され、苦しそうに呻き、DPがゼロになり、また回復した。
 「ほんと……吐きそうだ……」
 プラズマは上から飛んできた炎の渦に巻き込まれ、DPがゼロになる。そして回復した。
 「……くそ……動けねぇ」
 プラズマは雷を纏った閃光に貫かれDPがゼロになる。
 そして、また回復した。
 「ちくしょう……」
 「何回、死ぬかなあ? 弱すぎんだけど。はーい、では、もう飽きちゃったんで、『時神全滅するでショー』を開催します! 皆さん、拍手ー!」
 飛龍は陽気に笑いつつ、先程よりも大きな炎を纏わせ、翼の生えた龍を具現化させる。
 「まずいっ! 全体攻撃だ! 逃げろっ!」
 プラズマの叫びもむなしく、炎の渦はフロア全体を飲み込み、激しく爆発した。

 リカとアヤは反応ができず、力なく空へ舞う。
 「リカっ! アヤっ!」
 プラズマはDP残り少なく立っていた。あちらこちらから血が滴っている。
 「ありゃ、運悪く残った! じゃあ、あんたがやられるまで、あの娘らはそのまんまだね」
 「……くっ」
 プラズマは飛龍を睨み付けると、神力を無意識に溢れさせた。
 髪が伸び、神力が漏れ始める。
 飛龍はそれを見て不気味に笑っていた。
 「ひひひ……」

 「あんたに聞きたかったことがある」
 「んー?」
 プラズマの問いに飛龍はおどけたように首を傾げた。
 「栄次はここにはいないだろ」
 「ふふふ、あたしに勝ったら教えてやるよ」
 飛龍はさらに神力を上げた。
 プラズマは息を深く吐くと、目を見開き、霊的武器『弓』を取り出す。
 「龍を狩ったことはねぇが……、遠慮はしねーぞ」
 「弓ね。……ん?」
 飛龍は後ろから何かを感じ、振り返った。神力の弓矢がなぜか後ろに出現し、飛龍を射貫き始める。
 「ふーん」
 目が良いプラズマは本気になれば、速いものでも見ることができる。未来を見、的確に物を撃ちにいけるのだ。
 飛龍はすれすれで避けていく。
 戦闘の才能で溢れている飛龍は、この程度ではかすり傷すら与えられない。
 プラズマは神力を矢のように発しながら、弓を射るが、まるで当たらなかった。
 「くそ……当たらねぇ……。俺では勝てない……。一回攻撃に当たってDPゼロにしねぇと、リカとアヤが……」
 プラズマは無理に飛龍の攻撃に当たり、呻きながらDPをゼロにする。コンティニューさせられ、アヤ、リカ、プラズマは全回復した。
 「アヤ、リカ、悪い。俺じゃあ勝てない。手伝ってくれ……。次は計画を立てるから。痛い思いをさせちまって悪かった。アヤは俺とリカに早送りの時間の鎖を、俺が攻撃を防ぐから、リカはアマノミナカヌシのヤリとやらで飛龍を攻撃しろ!」
 プラズマが叫び、リカとアヤの肩が跳ねる。
 「来るぞ! もう、食らわねぇようにしろっ!」
 プラズマが怯えているリカとアヤを呼び戻し、飛龍に集中させ始めた。
 「わ、わかったわ……」
 「……うん」
 二人は怯えつつ、辛うじて返事をし、飛龍に目を向けた。
 
 プラズマは神力全開の結界をリカに張り、リカにかかる攻撃をすべて弾いた。
 プラズマが神力を全開にしないと飛龍の攻撃が防げないのだ。
 アヤはプラズマとリカに全力で「早送りの鎖」を巻き、動きを素早くさせる。リカは飛龍の動きがのろく見えるようになり、攻撃を当てようと槍を振り抜く。
 しかし、飛龍にはあっけなく避けられた。
 「リカ! 右だ!」
 プラズマは未来見をして、飛龍の動きを読み、攻撃させる。
 「へぇ……」
 飛龍は少しずつDPを削られていった。だが、微妙に減っているのみだ。このままでは負ける。
 飛龍はまだ、何かを隠しているようだ。そもそも、飛龍は龍である。まず、彼女は龍になっていない。
 プラズマはそれを不気味に思っていた。彼女が龍になったら、間違いなく永遠のコンティニューだ。
 「はははっ! じゃあ、本気だしちゃおっかなあ!」
 「ちっ……リカっ! アヤ! 俺の後ろにまわれっ!」
 飛龍の発言から未来見をしたプラズマはアヤとリカを呼び戻した。ふたりは慌ててプラズマの後ろへ隠れる。
 「な、なに?」
 「まさか、龍に」
 アヤとリカの動揺の声を聞き流し、プラズマは飛龍が『翼の生えた真っ赤な龍になる』ところを黙って見ていた。
 炎を撒き散らした飛龍は大きな龍に変わり、鋭い目をさらに鋭くし、攻撃を仕掛ける。
 尾を軽く振っただけで闘技場の崩れた岩を吹き飛ばした。
 「……俺のミスだ……。竜宮から栄次が過去戻りをしたわけじゃない。アヤとリカには栄次の単純な『過去』しか映ってねぇじゃねぇか。栄次がここに来ていたなら、『竜宮内での過去』が優先されて映るはずなんだ。関連する過去から引き出されんだから」
 プラズマは目を細め、無駄足だったことを悔やんだ。
 栄次を探さないといけないのだが、飛龍は逃がしてはくれない。
 「……俺が神力をさらに全開にして、神力の使いすぎで倒れたら、アヤとリカを誰が守るんだ……」
 プラズマは神力をさらに上げる。飛龍が灼熱の炎を吐いた。
 アヤとリカはお互いの手を握り合い、怯えていた。
 「……ここは防ぐ。あんたらは……飛龍の攻撃の合間に逃げろ」
 「……プラズマ……」
 「プラズマさん」
 「……」
 プラズマはアヤとリカの声を無視し、神力全開の結界を張った。
 「俺は防ぐしかできねぇ。あいつには攻撃が当たらない」
 炎の渦をプラズマひとりの結界で弾ききった。
 すぐさま、飛龍は尾で時神達を凪払う。
 プラズマは未来見で攻撃が来る方向を予測し、片方に全力の結界を張り、衝撃を防いだ。
 「はははっ! 後三回くらいで神力きれるかな?」
 飛龍は楽しそうに時神達に雷を落とす。
 プラズマは落ちてくる雷を予測し、すべて結界で弾いた。
 ……どこでふたりを逃がす?
 肩で息をしつつ、かすむ目で飛龍の竜巻を、ドーム状にした結界で弾いた。リカとアヤは経験不足。
 飛龍の隙がわからない。
 だから、逃げずに立ち止まっている。
 「……竜宮に入る前に止まれば良かったかな」
 「プラズマ、栄次がいないとわかっただけでも良かったじゃない」
 アヤがプラズマに『巻き戻しの鎖』を巻き、神力を使う前に戻した。
 「……そうだな」
 「プラズマさん、なんとかして竜宮から出ましょう!」
 珍しく落ち込んでいるプラズマにリカも声を上げる。
 もう一度、皆で逃げる術(すべ)を考え始めた時、一つ目の、緑色をした龍が現れ、飛龍を止めに入った。
 「飛龍、何をしているのだ……」
 一つ目龍はあきれた声をあげる。どうやら竜神のようだ。
 「ゲッ! オーナー! い、いやあ、これは……その~」
 一つ目龍を見るなり、飛龍は急に大人しくなり、すぐに人型に戻った。
 「客が全くおらんのだが、また勝手に竜宮を動かしたか?」
 一つ目龍はやや怒りながら、若い男性の姿へと変わり、頭を抱えていた。

 「オーナー……天津彦根神(あまつひこねかみ)か」
 プラズマは目を細め、青年を見据えた。緑の長い髪にオレンジの瞳、頭に竜のツノ、ところどころに竜のウロコのようなものが見える。紫の袖無しの着物からは、たくましい腕が覗いていた。
 「て、敵っぽくはないね……」
 リカの言葉にアヤが小さく耳打ちする。
 「この竜宮のオーナーで、龍神のトップ、アマテラス大神の第三子よ……リカ」
 「え、偉い神様……」
 リカは人間離れしている男を恐々見始めた。
 「家之守龍神(いえのもりりゅうのかみ)、どういうことだ、起きなさい」
 オーナー天津(あまつ)は気を失っていた地味子を揺する。
 「……あいつ、そんな名前だったのか……」
 プラズマが地味子の本名に驚いていると、地味子が勢いよく目覚めた。
 「あ、あれ? 私……、って! オーナー天津様っ!? ヒィィィ! お許しを」
 地味子は顔面蒼白で叫び、さらに飛龍にも鋭く声をかける。
 「あ、あんたがオーナーがいない間にやるって言ったんだからね! 半分おどされたんだからね!」
 火の粉が飛んできた飛龍は冷や汗をかきながら、オーナーにはにかんだ。
 「ハードモードも悪くないかなって……」
 「……やはり、お前か。飛龍流女神(ひりゅうながるめのかみ)、また勝手に竜宮を変えたな?」
 「変えたなんてそんな……、竜宮自体はいじってねーよ。チュートリアルでよっわいツアコン置いて、勝てた奴を竜宮に入れるシステムにしただけ! 地味子は案内役と、能力使って竜宮外でもゲームができるようにしてくれていた。まあ、他の龍神はあんたからの罰を恐れていなくなっちまったがね」
 飛龍は苦笑いを浮かべながら、オーナーに言い訳をする。
 オーナーの目付きが鋭くなり、飛龍と地味子は口をそろえて言った。
 「あの! ツアーコンダクターも道連れに!」
 「当たり前だ……。お前達、全員厳罰。私がいなくなるといつもこうだ」
 「ま、待ってくださーい! 私は脅されたんだってばぁ!」
 地味子はあっさりオーナーに担がれ、情けない声をあげながら必死に言い訳をしていた。
 「ちょ、ちょ、マジで竜宮をいじってはないんだっ! ちょっと雰囲気を変えただけでっ!」
 続いて飛龍もあっけなくオーナーに抱えられる。
 あっという間のできごとに、時神達は呆然としていた。
 「ね、ねぇ、ぼうっとしている場合じゃないわ、プラズマ」
 アヤがふと、プラズマの脇をつついた。
 「な、なんだ?」
 「普段竜宮から出ないオーナーが外出していたのよ? 東西南北、太陽、月の会議に出ていたんじゃないかしら?」
 そこから先はわかるでしょと、アヤはオーナーに尋ねるよう、プラズマに目配せをする。
 「はっ! ……そうか」
 プラズマは気がつき、オーナーを呼び止めた。
 「天津(あまつ)、六大会議に出ていたのか? 俺達は時神過去神、栄次を探しているんだ」
 プラズマの言葉に眉を寄せたオーナーは地味子と飛龍を抱えたまま、振り返り、プラズマを見据えた。
 「……礼儀はどうした?」
 「え……ああ、失礼しました。私は時神未来神、湯瀬紅雷王(ゆせ こうらいおう)でございます。あなた様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
 プラズマは冷や汗をかきながら、慌てて丁寧に名乗った。
 それを聞きつつ、オーナーはあきれながらプラズマに返答する。
 「私は竜宮城で龍神をまとめている、アマテラスの第三子、天津彦根神(あまつひこねのかみ)である」
 「……んで、時神過去神、栄次を探してんだけど、見てない?」

 オーナーは再び軽くなったプラズマに頭を抱えていたが、しっかり答えた。
 「ああ、それについての会議に出ていたのだ。頭が重い。今回、竜宮は関係がないのだ。ただ、お前達時神が来たことで、無関係ではなくなってしまったが……」
 オーナーの言葉に時神達は目を光らせた。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
  
 
 
 

 

 
 
 
 
 

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