リュウはすぐに襲いかかり、プラズマのDPをなくし始める。
「俺様はハードモード竜宮に入れるか試すツアーコンダクター。手加減したら、おめぇらは中にいるあいつに、瞬殺される。ワンショットキル」
プラズマのDPが減り、再び血にまみれた時、アヤは慌てて時間の巻き戻しを行った。
「へぇ、タイミングがいいな」
リュウは感心したようにアヤを見た後に、嘲笑しながら言う。
「だがっ! 弱すぎるんだよ!」
リュウは再び飛びかかったリカの槍をひしゃくで受け止め、プラズマを水流で叩いた。
今度のプラズマはもろい結界(バリア)で水流の衝撃をやや緩和させる。
「イッテェっ! ムチ打ちされてるみたいだ。結界で弾いたはずなんだが......」
「結界なんて意味ねぇよ。貫通させてやるからな......おっと」
リカが無意識に浮遊させた槍がリュウを襲った。リュウは危なげにかわし、リカに強い神力を向ける。
「お前、まだ神になって一年目だろ? 神力が弱すぎる」
「......ひっ。な、なに......この力」
リカが強い神力に震え始め、プラズマは光線銃を放ち、リュウをリカから離した。
「なんだ? てめぇ、攻撃がぬるいぜ、未来神。本気をだしやがれ」
リュウはプラズマをてきとうに挑発する。
「ちっ、避けられた......」
「もう一発水流を当てて、戦意喪失させてやるぜ」
「そうはいくかよ! アヤ、早送りしろ!」
プラズマはアヤに突然叫んだ。アヤは肩を跳ねさせて驚くと、プラズマに早送りの時間の鎖を巻く。プラズマは水流をすばやく避け、着地した。
「アヤに頼りすぎんのはダメだ。中の龍神と戦うことになった時、アヤの神力がないと死ぬ」
プラズマはひとりつぶやくと、神力をやや解放した。
うねる水流を目で追い、なんとか避けていく。
「逃げるだけじゃ、俺様にダメージは与えられないぜ」
リュウはさらに水流を出現させ、プラズマを襲う。プラズマは全部を避けきれず、何発か当たってしまった。
「うっぎぎぎ......」
歯を食い縛り、痛みに耐える。
「イテェだろ? 龍神の攻撃はイテェのが基本だ。どうだ? やめるか? 精神壊れんぞ」
「プラズマ......」
アヤが怯えながら時間の巻き戻しを行おうとするが、プラズマが止めた。
「多用するな。あんたがいないとこれからがもたない」
「で、でもっ......血が......」
アヤは震えながらプラズマを見る。
「大丈夫だ」
「そんな......」
アヤが手をおろした刹那、リカがリュウに向かい再び槍の攻撃をおこなった。
「おりゃああ!」
「はあ......おめぇもあれ、食らいたいのか? のたうち回るくらい痛いんだぜ」
リュウは苦笑いをしつつ、リカの槍を軽々とまた受け止める。
「......うう......あ、あなたは......女性に酷いこと、できないんですよね? な、なら私が頑張れば......」
リカは震えつつ、無意識に無形状の槍を多数再び浮遊させていた。
「はあ、おめぇな、ケンカしたことねーだろ? 本気で俺様を倒そうとしてるか? ひとつ、言っておく。俺様はハードモード竜宮に入れるか試す役目。今まで弱い女が来たことはねぇ。手加減はしちまったかもしれねーが、俺様は全部負けてる!」
自慢げにリュウは言う。
「だけどな、こんな、弱いやつは初めてなんだ。こんなの、どう頑張っても負けられねぇぜ」
リュウは飛んでくるリカの槍を軽く避けつつ、プラズマに水流をぶつけ始めた。
「未来神のDPをゼロにしたら、あんたらの敗けだ。あいつは戦い慣れてないから時間の問題だぜ」
「そうはいきません! 私はそんなに弱くないです!」
リカが睨み付けてくるので、リュウはため息をつきつつ、口を開く。
「じゃあ、一発、弱いやつ食らってみろや」
「......うう......いいですよ......、く、食らってやりますよ!」
リカが震えながら叫び、リュウは目線を合わせず、困惑しながら弱い水流を出現させる。
「痛ぇぞ、泣くなよ。顔はやめといてやる」
「リカっ! よけろ!」
プラズマは叫んだが、リカはリュウのひしゃくを受け止めているため、動けない。
リカは思い切り、頭から水をかぶった。
「ひぃぃぃ! って......え?」
「やべ......弱すぎた。コントロールすらうまくできなかったぜ」
リュウがつぶやき、リカは目を丸くする。リュウの水流が弱すぎて、リカは頭から水をかぶり、びしょびしょになっただけだった。
「チャンスだ。アヤ!」
「......は、はい......」
プラズマはアヤを呼び、アヤはプラズマに早送りの鎖を巻く。
プラズマは光線銃をリュウ目掛けて発射させ、リュウのDPを減らし、さらにリュウのふところに入り込み、神力を拳に乗せ、打ち放つ。
「よくもさっきはバカスカやってくれたな! 倍の痛みを与えてやる......」
「マジかよ!」
リュウはリカのことで頭がいっぱいになり、プラズマの攻撃に気づかず、光線銃に当たり、さらにプラズマの強烈な拳が顔面に入り、吹っ飛んでいった。
砂浜に砂を撒き散らして激突したリュウはDP1で倒れこむ。
「えっと、えっと......えいっ!」
リカは迷いながら無形状の槍でリュウを軽く叩いた。
リュウのDPはゼロになり、竜宮が時間を戻し始め、すべてが元に戻る。
「ちくしょう......やられた」
リュウは全回復し、悔しそうに頭をかいた。
「リカ! 大丈夫か!」
「リカ!」
プラズマとアヤがリカに寄り、心配しつつ、怪我の有無を確認する。
「あー、そいつは大丈夫だぜ。水を頭からかぶっただけ。くそ、女の子に優しくしたかっただけの俺様の隙をついて、ヤりにくるとか、最悪だぜ、てめぇら。地の底に落ちて飛龍(ひりゅう)にボコられちまえ!」
リュウは悪態をつき、プラズマが苦笑いをした。
「いやあ、すまん。なんかイラついて。じゃ、『入城券』渡せよ」
「ほら、死ぬなよ。女ふたりが危うい。てめぇが守れよ、紅雷王(こうらいおう)」
リュウは乱暴に紙を三枚取り出すとプラズマにかざす。
「その名前で呼ぶんじゃねぇよ!」
プラズマは怒りながら、入城券を奪い取った。
『入城券』を持った三人が一息ついたところで、海の中から龍神の使い、カメが現れた。
まいこさんのような格好をしている黒髪の女なため、カメだとは気づきにくいが、緑の甲羅をもっているから、よく見れば気がつく。
「入城券を確認するさね!」
「あ、ああ、これだ」
カメに問われ、プラズマは慌てて券を見せた。
「はーい、じゃあいくさね~」
気の抜けた声を出したカメは海へ飛び込んだ。
「え? ちょっとまって、竜宮は?」
リカが戸惑いの声を上げ、アヤは首を傾げる。
「まさか、海の中にあるなんて言わないわよね」
「海の中にあんだよ、竜宮は。カメかツアーコンダクターがいないと溺れるようにできてるんだ」
プラズマが答え、アヤは納得したが、リカはまだまだ慣れていないのか、頭を抱えていた。
「一体、どうなってるんだろ......」
リカの不安そうな顔を横目で見たリュウはため息をつく。
「てめぇと、おめぇは高天原に入れる神格がねーんじゃねーのか? オーナー天津(あまつ)から怒られるぞ」
リュウはアヤとリカを指差し、睨み付けながら言った。
「ま、まあ、俺の連れということで、入ったからセーフだ。たぶん」
「セーフかねぇ? 俺様は知らねーぞ。少女ら、怪我すんなよ」
なんだか優しい言葉を言ってきたリュウは、手を振りながら去っていった。
しばらく、リュウの背中を眺めていた時神達は、カメの声で我に返る。
「とりあえず、早くするさね! 海に飛び込む!」
海からちらりと顔を出したカメに叱られ、時神達は慌てて何も考えずに海に飛び込んだ。
※※
栄次は霧の中を歩いていた。
辺りは真っ白、前は見えない。
だが、スズの声が聞こえるため、前に進めた。
進んで行くと、森の中へ出た。
森はどこか懐かしい雰囲気がし、夕日が栄次を照らす。
「ここは......」
栄次は少し開けた場所に木の棒が刺さっているのを見つけた。
木の棒の前に白い花が供えられている。
「......墓......」
「そう、私の墓かな?」
栄次がつぶやいた刹那、目の前に忍装束を着た黒髪の幼い少女が現れた。
「す......スズ」
栄次は何百年ぶりに彼女に会ったため、体を震わせる。
「紅色のくちなわ、久しぶり。蒼眼(そうがん)のタカに会いたい? もう一度、『殺しあいたい』?」
スズは子供らしい顔で笑うと、栄次を見上げた。
「......いや、助けたい。助けてやりたい。あの男の過去は壮絶だった。......そして、お前も救ってやりたい。苦しかっただろう? 痛かっただろう?」
栄次はスズの頬に触れる。
「そうだ。あんたはそういうやつだ。私にいつも優しいんだ」
「ああ......更夜を止めねばな」
栄次は墓を通りすぎ、夕焼けの森を歩き出した。
「......ふふ。心が『過去に戻っている』。あんた、今は『令和』なんでしょ? くくく」
スズはおかしそうに笑うと、栄次の後ろを、距離をとり、歩き始める。ちょうど三尺。
九十センチほど。
女は男の三尺後ろを歩く。
本来なら刀が当たらない、女を守るための距離。
敵から女を逃がすための距離。
しかし、彼女はそのために離れたわけではない。
「いつ、殺されるか、わからないからね......。もう、疲れたよ、栄次様」
スズは、今度、悲しそうに目を伏せた。
カメに連れられて海の中を進む。不思議と呼吸ができ、何もしていなくても海底へ勝手に向かっていく。
海の中は澄んでいて、とてもきれいで、磯の香りはするものの、生き物が何もいなかった。
いるのは人型ではないウミガメだけだ。
「わあ、かわいい」
呑気なリカが横を泳ぎ去るウミガメに声を上げる。
「あー、そのカメは、イケメンなカメさね。人型になったらかっこいい方」
カメがどうでも良い情報を横から入れ、リカは苦笑いを浮かべた。
「お、男の人? ......だったんだ」
リカがぼんやりつぶやき、プラズマはため息をつく。
「いやあ、もうあんな痛いのは勘弁だな」
「プラズマさん、ごめんなさい。なんか戦えなくて」
「私も......ごめんなさい。怖くなってしまって」
リカとアヤが申し訳なさそうにあやまるので、プラズマは頭をかいて再び息を吐いた。
「あんたらがケガしなくて良かったってことにするさ。それより、アヤ、竜宮が近い。栄次の過去が見えたりするか? ここに来たかどうか。竜宮は対象の神の過去も映すから」
プラズマに問われたアヤは眉を寄せる。
「栄次がここに来たかどうかの過去は見えないわね」
「リカは見えるか?」
アヤの返答を聞いて、プラズマは今度、リカに尋ねた。
「なんにも見えませんね」
「......まさか、竜宮にいねぇってことあるか?」
プラズマはアヤを不安げに見る。
「......どうかしら。過去に戻れる方法は竜宮を使うしかできないはずでしょう?」
「ああ、そのはずだ。やっぱ行くしかないか。情報がなさすぎるんだ」
「......プラズマ......あんな痛い思いしたら、もう嫌よね......。あんなに血が......」
アヤが泣きそうになっているので、プラズマは苦笑いを浮かべた。
「ああ、怖いぜ、正直な。だが、俺がやるしかねぇから」
「......ごめんなさい」
アヤは手でプラズマの頬を軽く触った。プラズマはアヤに触られ、頬を赤くすると軽く笑う。
「そ、そんな顔すんじゃねーって。もう着くぞ」
気がつくとかなり深くまで潜っており、光が届かないところまできていた。辺りにはなぜか『ちょうちん』が浮かんでおり、あかりが灯(とも)っている。
大きな赤い鳥居がちょうちんの先に見え、その奥に大きな門があった。門の奥には天守閣が見える。
竜宮だ。
「結界を抜けるさね~」
カメがそう言うと、アヤ達は突然地面に足を着けていた。水の中の感じもなくなり、地上に出たかような状態で、天井にはなぜか青空が見える。
「不思議すぎる......」
リカは状況についていけず、いつまでも戸惑っていた。
カメに連れられ、門をくぐり、しばらく歩くと遊園地のような遊具があり、レジャーランドの雰囲気が出ている。中にはどうやって乗るのかわからないような乗り物まであり、神の世界らしさを感じた。
カメは遊具を通りすぎ、竜宮本館、天守閣の前で立ち止まる。
「はいはい、この自動ドアから中に入ってくださいねぇ。ハードモード中なので、龍神は基本襲ってきますので、ご注意を」
カメはその一言だけ言うと、逃げるように去っていった。
「......オイオイ......受付、従業員、ツアーコンダクターすら同行しないのか......」
プラズマはあきれた声をあげ、アヤはため息をつく。
「もう、嫌な予感しかしないわね」
三人はとりあえず、自動ドアから竜宮ロビーへ入り込んだ。
ロビーは薄暗く、誰もいない。
レジャー施設なのか廃墟なのかわからない有り様だ。
受付には受付係はおらず、汚い字で行く方向の矢印が書かれていた。矢印を追うと、階段にたどり着き、どうやら階段をのぼれということらしい。
「天津(オーナー)がこんな酷い管理、しないと思うんだよな......。こりゃあ、勝手にやってんな」
プラズマがつぶやき、アヤ達は震えながら階段をのぼる。
のぼった先は廊下になっており、片方が全面ガラス張りで、竜宮の遊園地が見えた。
室内アトラクションもあるようだが、どこも稼働していない。
恐々先へ進むと、一つだけやっている場所があった。
その名は『ドラゴンクワトロ』。
「ドラゴン......」
なんだか危なそうな名前のアトラクションだ。
「ん!?」
ふと、プラズマの目に栄次が映った。
「プラズマ?」
アヤとリカが心配する中、プラズマは意識を集中させる。
「栄次......どこにいる」
......なんで、未来しか見えない俺に過去が映る......。
栄次は夕焼けの森を歩いていた。雰囲気は荒々しく、剣気が辺りに舞い、後ろから黒髪の少女が歩いている。
......過去......じゃないのか?
ひょっとすると......『未来』のことなのか?
プラズマは頭を抱え、つぶやく。
「俺に過去が見えるわけがない。俺は未来しか見えない。過去を映す竜宮にいても、それは同じだ。じゃあ、この栄次はなんだ? 栄次、どこにいる......」
「プラズマ......もしかして本当に栄次は竜宮から過去に入っていない?」
「わからない。いないかもしれない......」
プラズマが不安になってきた所で、麦わら帽子をかぶった、ピンクのシャツにオレンジのスカートを履いた、やや地味めの少女が、けん玉をやりながら階段をおりてきた。
「あ、お客さん? 二階へご案内しまーす」
「あ、ちょっと待って......」
アヤの制止もむなしく、三人は地味な龍神に背中を押され、階段をのぼらされてしまった。
栄次が夕焼けの森を歩いていると、突然夜に変わった。
場所も変わり、目の前に屋敷が見える。あきらかに『令和』の時代にはない空気だ。
まず、あかりがない。
栄次が歩くたびに、時間が戻っていく。
「屋敷に戻らねば」
栄次には違和感がないのか、そのまま屋敷の中へと足を進めた。
当たり前のように、『いつも』のように屋敷へと帰る。
この屋敷はどこかおかしい。
なぜかと言うと、手柄をたてた者達を、殿がわざわざ離した屋敷に住まわせているからだ。
殿に貢献した者がなぜか遠くに住まわされるのか。殿は腕のたつ者の中に、『忍』が混ざっているかもしれないことを恐れていたのだ。
栄次は殿のために尽くしたのだが、遠くの屋敷に住まわされていた。
そして、栄次は人を殺さないことで有名だった。失神させるだけで『首』をとらないのだ。
失神させた武将の首は手柄をたてたい者が奪うため、栄次のまわりには常に『血に飢えたケモノ』達がいる。
栄次はヘビのように避けていき、剣撃も鉄砲も当たらない強者として、『紅色のくちなわ(ヘビ)』という名で恐れられていた。
「このまま、何も起こらなければ良いのだが」
栄次は小さくつぶやくと、屋敷の廊下を歩き、自室に帰る。
この屋敷は長屋のようになっており、障子扉一枚で部屋が仕切られていた。
兵達の士気をあげるためか、遠くに住まわされた罪滅ぼしかはわからないが、この屋敷には男達を癒すため、女達が住まわされており、毎夜、女が夜遊びに部屋に来る仕組みである。
殿が女好きであるため、こんなことになっているらしい。
「今夜も憂鬱だ。さっさと寝るか」
栄次はそんなことを思いつつ、着物を脱ぎ、畳の上に横になった。
脱いだ着物をかけ布団がわりにかけ、目を閉じる。
「......もし」
ふと、障子扉の向こう側から消え入りそうな少女の声がした。
「ああ......」
栄次は頭を抱えながら、起き上がり、皿に入れた灯(とも)し油に灯芯(とうしん)を浸し、火をつける。
この時代はキャンドルよりも火が弱い灯し油を使っていた。
栄次は毎夜、やってくる女を無視できず、毎回部屋に入れてしまう。なにかするわけでもなく、話して隣で寝てもらうだけだ。
「今、開ける」
栄次はそう言うと、障子扉を静かに開ける。
目の前に三つ指(親指、人差し指、中指)をついて頭を下げている少女がいた。赤い着物を着ている。
「......ずいぶんと......幼いな」
栄次が驚くと、少女は小さく縮こまった。どうやら、男の裸を見たことがないようだ。
栄次は困惑しつつ、かけ布団がわりの着物を羽織る。
「すまんな、怖がらせるつもりではなかったのだ」
「......はい」
少女は素直に栄次の部屋に入ってきた。
「お前、いくつだ?」
「......はい、七つでございます」
少女は栄次と距離を取りつつ、栄次の問いに答える。
「名は?」
「スズでございます」
「......親に売られたのか」
「......はい」
少女、スズは顔が険しくなる栄次に怯えながら小さく言葉を発していく。
「心配するな、なにもせん。かわいそうに......俺が横で一緒に寝てやろう」
スズは目に涙を浮かべると、素直に栄次の隣で横になった。
「寒くはないか?」
栄次はスズの頭を撫で、予備の着物をかけてやった。
スズの胸あたりをゆっくりと優しく叩き、栄次はスズを寝かしつけ始める。
しばらくして、再び栄次が声をかけた。
「......子供がこんな夜更けまで起きていてはいかぬ」
スズは栄次の優しい声に何とも言えない顔をする。
「眠れぬのか?」
栄次はスズにあたたかい笑みを向け、スズの胸辺りをまた、軽く叩き始めた。
「大丈夫だ、安心しろ」
よくわからない感情がスズを覆う。
スズは声には出さず、心でつぶやいた。
......栄次様は優しい。
平和な時代のお父様って、
こんな感じなのかな......。
親の愛を感じたことのない彼女は、悲しき運命を辿ることになる女忍だった。
少女はかけられた着物の下で小刀を握りしめた。
竜宮は驚くほど静かだ。
けん玉で遊んでいる謎の女龍神に上の階段をのぼらされ、時神達はわかりやすく怯えていた。
「あら? 不在だね」
女龍神が辺りを見回してから、時神達を見る。
「ふ、不在なら、このまま出るよ。竜宮に用がなくなったからな」
プラズマは冷や汗をかきつつ、女龍神にそう伝えた。
「ふーん」
女龍神がつぶやいた横で、アヤとリカが同時に何かに反応していた。
なにかの記憶を見ているようだ。
「アヤ、リカ......大丈夫か」
「栄次の映像が見える......っ」
「俺には見えない。だから、過去のようだな」
プラズマが、過去をみているアヤとリカを見据えながらつぶやく。
栄次は全身黒ずくめの幼い少女を寝かしつけていた。畳を重ねて寝ており、栄次が着ていた着物をかけ布団がわりにかけている。
リカは寝にくそうだと思っただけだが、アヤは目を細めて言った。
「戦国時代か江戸時代......かしら?」
やたらと部屋が暗く、電気もない。ろうそくすらないようだ。
「......栄次さん、優しい顔をしてるね」
リカがつぶやき、アヤが答える。
「そうね。誰なのかしら、この子供」
ふと急に時間が飛んだのか、なぜか黒い少女は縄に繋がれ、弱々しく上を見上げていた。
「......なに?」
アヤが意識を集中させ、少女の前に立った人物の輪郭をハッキリさせる。
「......っ、更夜?」
少女の前で刀を持ち、立っていたのはサヨの先祖である更夜だった。
何かを話している。
話している内容はわからないが、悲しそうな表情の栄次が映った。少女は静かに目を閉じ、無表情の更夜が刀を振りかぶる。
なぜか彼は目を怪我していた......。
更夜は一瞬だけ、せつなげな表情をし、目を泳がせると、少女を......。
「ひっ!」
アヤとリカは同時に悲鳴を上げ、手を口元へ当てた。
顔色が青くなり、震え、目に涙を浮かべる。
「......アヤ、リカ! 大丈夫か! 何を......」
プラズマが声をかけるも、アヤとリカは言葉がないのか、口をわずかに動かしているだけだった。
そのうち、リカが口元を抑えたまま、胃液を吐き出した。
「リカ......。おいっ!」
プラズマはリカの背中を優しくさすり、アヤを優しく引き寄せる。
「......何が見えた? 言いたくなきゃ言わなくていいが」
プラズマは会話ができそうなアヤに尋ねた。
アヤは目に涙を浮かべ、震えながら小さな声を上げる。
「幼い......女の子が、更夜に首っ......」
切れ切れに言うアヤの言葉でプラズマは理解した。
「ああ、そうか。これは栄次周辺の当時の記憶だ。今じゃない。......ただ、平和を生きていたあんたらからしたら、かなりショッキングか......」
プラズマがアヤとリカを落ち着かせつつ、けん玉の龍神を見る。
「......で、あんたは俺達を襲わないのか?」
「何言ってるの? 私は戦わないよ。こんな野蛮なゲームしない。君達、ラッキーだったね。他のヤバい龍神にも出会わず、飛龍も不在ならかなりのラッキー」
「お、おう、そうか。な、なら良かった......。地味な感じの龍神もいるんだなあ......」
プラズマは言葉の地雷を踏んだ。何かの単語にけん玉の少女龍神は青筋をたてる。
「地味......地味って言った? 私は地味子じゃないっ!」
なんだか突然怒り出した少女は唐突に意識を失い、その場に倒れた。
「ちょっ......え? あ、お、俺が地味って言っちゃったからっ......ご、ごめん......。ていうか、何?」
プラズマが慌てている中、恐ろしく強い風が吹き、風は倒れた少女に集まり、包む。
すると、少女が突然桃色の髪へと変わり、頭にツノが生え、龍を模した創作着物に身を包み、現れた。
「えっ......」
さすがにリカとアヤも目を丸くし、意識を少女龍神へと向ける。
少女龍神は表情がなくなり、冷たい瞳のまま、剣のようになった霊的武器「けん玉」で襲いかかってきた。
「お、おいっ! ま、待て待て! なんだかわからねーが、ごめん! ほんと、ごめんなさーい!」
プラズマがあやまりながら必死に逃げ、アヤとリカも、とりあえず戦う準備をする。
「あの龍神......感情がなくなってるみたいだわ。まさか、二重神格......」
アヤがつぶやいた刹那、プラズマが一撃でDP(ドラゴンポイント)をゼロにされていた。
ゲームオーバーのはずだが、勝手にコンテニューさせられ、プラズマのDPはまた満タンに戻る。
かまいたちがプラズマを切り裂き、剣のように固い水を纏わせたけん玉に斬られ続けた。
「いてぇっ!」
DPは何度もゼロになり、プラズマは痛みに悶え、血を流す。
アヤとリカも容赦なく襲い、震えて動けない二人をかばうため、プラズマが飛び込んで身代わりになっていた。
「信じ......らんねぇ......。強すぎる......」
プラズマは何度も来る強烈な痛みに足を震わせ、動きが鈍くなったため、何度も無慈悲な攻撃を受け続けることとなる。
「ぐあっ......がはっ......ごほっ......」
反撃の隙すらない恐ろしい攻撃が続き、プラズマの精神も病んできた所で、何かが飛んできた。
少女龍神は吹き飛ばされて、地面に叩きつけられ、意識を失った。元の黒髪になり、服も先程の地味めなものに戻った。
「はあっ......はあっ......なんだ?」
プラズマが肩で息をしつつ、アヤとリカをかばうように前に立つ。
「そいつは大丈夫だ。感情を高ぶらせると地味子は攻撃的な神格が出るが、長くは持たない。超強ええから好きなんだがねぇ。もう終わりかあ。タイムリミットの神力の後半だったから、ぶっ飛ばせた。ははは~!」
プラズマの目の前に赤い髪の荒々しい女龍神が現れた。
豊満な胸を動きやすい袖無しの着物で隠し、鋭い目は赤色で、紫に金の龍が描かれたハチマキを頭に巻いている。
何本もロープのように結わいている髪は長く、まるで龍のようにうねっていた。
まずい雰囲気しか感じない。
「ま、まさかっ......」
......こいつは一番会ってはいけない、アイツかよ......。
赤い髪の女龍神は狂気的に笑いつつ、挨拶をした。
「あたしは飛龍流女神(ひりゅうながるめのかみ)。飛龍だ! あー、あらためまして」
飛龍と名乗った女は鋭い瞳をさらに鋭くし、言い放つ。
「ようこそ、いらっしゃいました! レジャーランド竜宮へ! ドラゴンクワトロを選ぶとは、すばらしい選択!」
飛龍は意気揚々と語る。
「やべぇのに見つかった……」
プラズマは慌ててアヤとリカの前に立った。
「ゲームで死闘ができるんだ、さいっこうだと思わないか? クワトロ、すなわち、『よん』、『し』、『死』だ! アハハハ!」
飛龍の高笑いにアヤ、リカ、プラズマは顔を青くする。
「始めようか! ここは、特に過去が映りやすい場所だ。お前らなら時神の過去かなあ?」
飛龍は高速で動きつつ、攻撃を始めた。炎を操るのか、雷を操るのか、閃光と真っ赤な炎が時神達を襲う。
「アヤっ! リカっ!」
プラズマはふたりをかばい、炎の中に入り込み、結界を張る。
しかし、プラズマの結界はあっけなく崩れ、DPが一撃でゼロになった。
勝手にコンテニューされ、DPがもとに戻る。
「アヤ、リカ……」
プラズマが全く動こうとしないアヤとリカに眉を寄せた。
二人は飛龍を見ていない。
「……記憶を見てんのか……。……ちっ」
上から飛んできた炎のヤリがプラズマを貫き、DPがゼロになる。
再びDPが回復し、プラズマのケガも治った。
「あァ……これはまいるな……。いてぇのが何回も来る。生きた心地がしねぇ」
しかし、動けるプラズマがなんとかするしかない。
一方でアヤとリカは栄次を見ていた。静かな夜更け、栄次は月を見上げていた。辺りは暗くてわからないが、屋敷の庭のようだ。
「更夜が消えた。あの男は……」
今度は栄次の声が響いた。
次第に人々の騒ぐ声が聞こえてくる。たいまつを持った男達が走り去った。
「殿がっ!」
「寄り添っていた女ごとやられた!」
「誰がやった?」
「わからぬ!」
人々は騒ぎ、混乱している。
その中、栄次は目を伏せ、ため息をつく。
「殿がやられたか。無関係の女まで……このようなむごいことができるのは、あの男だけだ。息子はかろうじて生きていたか。殿のみの暗殺……だな。嫌な予感がする」
そうつぶやいた栄次は、雲に隠れてしまった月を再び見上げていた。
「……切れ切れすぎて、なんの記憶か全くわからないわ。だけれど、栄次が仕えていた殿が暗殺されたようね。……はっ! プラズマっ!」
記憶を見終わったアヤがつぶやき、我に返った。
「……っ! プラズマさんっ!」
リカも我に返る。
プラズマはDPが回復した状態で震えていた。死ぬ寸前まで痛めつけられ、回復するのを繰り返し、身体が痛みを拒絶し始めたのだ。
「い……いやあ、あの男(栄次)の精神力の強さ……今更ながら尊敬する」
そう言った瞬間に、プラズマは炎のヤリに刺され、苦しそうに呻き、DPがゼロになり、また回復した。
「ほんと……吐きそうだ……」
プラズマは上から飛んできた炎の渦に巻き込まれ、DPがゼロになる。そして回復した。
「……くそ……動けねぇ」
プラズマは雷を纏った閃光に貫かれDPがゼロになる。
そして、また回復した。
「ちくしょう……」
「何回、死ぬかなあ? 弱すぎんだけど。はーい、では、もう飽きちゃったんで、『時神全滅するでショー』を開催します! 皆さん、拍手ー!」
飛龍は陽気に笑いつつ、先程よりも大きな炎を纏わせ、翼の生えた龍を具現化させる。
「まずいっ! 全体攻撃だ! 逃げろっ!」
プラズマの叫びもむなしく、炎の渦はフロア全体を飲み込み、激しく爆発した。
リカとアヤは反応ができず、力なく空へ舞う。
「リカっ! アヤっ!」
プラズマはDP残り少なく立っていた。あちらこちらから血が滴っている。
「ありゃ、運悪く残った! じゃあ、あんたがやられるまで、あの娘らはそのまんまだね」
「……くっ」
プラズマは飛龍を睨み付けると、神力を無意識に溢れさせた。
髪が伸び、神力が漏れ始める。
飛龍はそれを見て不気味に笑っていた。
「ひひひ……」
「あんたに聞きたかったことがある」
「んー?」
プラズマの問いに飛龍はおどけたように首を傾げた。
「栄次はここにはいないだろ」
「ふふふ、あたしに勝ったら教えてやるよ」
飛龍はさらに神力を上げた。
プラズマは息を深く吐くと、目を見開き、霊的武器『弓』を取り出す。
「龍を狩ったことはねぇが……、遠慮はしねーぞ」
「弓ね。……ん?」
飛龍は後ろから何かを感じ、振り返った。神力の弓矢がなぜか後ろに出現し、飛龍を射貫き始める。
「ふーん」
目が良いプラズマは本気になれば、速いものでも見ることができる。未来を見、的確に物を撃ちにいけるのだ。
飛龍はすれすれで避けていく。
戦闘の才能で溢れている飛龍は、この程度ではかすり傷すら与えられない。
プラズマは神力を矢のように発しながら、弓を射るが、まるで当たらなかった。
「くそ……当たらねぇ……。俺では勝てない……。一回攻撃に当たってDPゼロにしねぇと、リカとアヤが……」
プラズマは無理に飛龍の攻撃に当たり、呻きながらDPをゼロにする。コンティニューさせられ、アヤ、リカ、プラズマは全回復した。
「アヤ、リカ、悪い。俺じゃあ勝てない。手伝ってくれ……。次は計画を立てるから。痛い思いをさせちまって悪かった。アヤは俺とリカに早送りの時間の鎖を、俺が攻撃を防ぐから、リカはアマノミナカヌシのヤリとやらで飛龍を攻撃しろ!」
プラズマが叫び、リカとアヤの肩が跳ねる。
「来るぞ! もう、食らわねぇようにしろっ!」
プラズマが怯えているリカとアヤを呼び戻し、飛龍に集中させ始めた。
「わ、わかったわ……」
「……うん」
二人は怯えつつ、辛うじて返事をし、飛龍に目を向けた。
プラズマは神力全開の結界をリカに張り、リカにかかる攻撃をすべて弾いた。
プラズマが神力を全開にしないと飛龍の攻撃が防げないのだ。
アヤはプラズマとリカに全力で「早送りの鎖」を巻き、動きを素早くさせる。リカは飛龍の動きがのろく見えるようになり、攻撃を当てようと槍を振り抜く。
しかし、飛龍にはあっけなく避けられた。
「リカ! 右だ!」
プラズマは未来見をして、飛龍の動きを読み、攻撃させる。
「へぇ……」
飛龍は少しずつDPを削られていった。だが、微妙に減っているのみだ。このままでは負ける。
飛龍はまだ、何かを隠しているようだ。そもそも、飛龍は龍である。まず、彼女は龍になっていない。
プラズマはそれを不気味に思っていた。彼女が龍になったら、間違いなく永遠のコンティニューだ。
「はははっ! じゃあ、本気だしちゃおっかなあ!」
「ちっ……リカっ! アヤ! 俺の後ろにまわれっ!」
飛龍の発言から未来見をしたプラズマはアヤとリカを呼び戻した。ふたりは慌ててプラズマの後ろへ隠れる。
「な、なに?」
「まさか、龍に」
アヤとリカの動揺の声を聞き流し、プラズマは飛龍が『翼の生えた真っ赤な龍になる』ところを黙って見ていた。
炎を撒き散らした飛龍は大きな龍に変わり、鋭い目をさらに鋭くし、攻撃を仕掛ける。
尾を軽く振っただけで闘技場の崩れた岩を吹き飛ばした。
「……俺のミスだ……。竜宮から栄次が過去戻りをしたわけじゃない。アヤとリカには栄次の単純な『過去』しか映ってねぇじゃねぇか。栄次がここに来ていたなら、『竜宮内での過去』が優先されて映るはずなんだ。関連する過去から引き出されんだから」
プラズマは目を細め、無駄足だったことを悔やんだ。
栄次を探さないといけないのだが、飛龍は逃がしてはくれない。
「……俺が神力をさらに全開にして、神力の使いすぎで倒れたら、アヤとリカを誰が守るんだ……」
プラズマは神力をさらに上げる。飛龍が灼熱の炎を吐いた。
アヤとリカはお互いの手を握り合い、怯えていた。
「……ここは防ぐ。あんたらは……飛龍の攻撃の合間に逃げろ」
「……プラズマ……」
「プラズマさん」
「……」
プラズマはアヤとリカの声を無視し、神力全開の結界を張った。
「俺は防ぐしかできねぇ。あいつには攻撃が当たらない」
炎の渦をプラズマひとりの結界で弾ききった。
すぐさま、飛龍は尾で時神達を凪払う。
プラズマは未来見で攻撃が来る方向を予測し、片方に全力の結界を張り、衝撃を防いだ。
「はははっ! 後三回くらいで神力きれるかな?」
飛龍は楽しそうに時神達に雷を落とす。
プラズマは落ちてくる雷を予測し、すべて結界で弾いた。
……どこでふたりを逃がす?
肩で息をしつつ、かすむ目で飛龍の竜巻を、ドーム状にした結界で弾いた。リカとアヤは経験不足。
飛龍の隙がわからない。
だから、逃げずに立ち止まっている。
「……竜宮に入る前に止まれば良かったかな」
「プラズマ、栄次がいないとわかっただけでも良かったじゃない」
アヤがプラズマに『巻き戻しの鎖』を巻き、神力を使う前に戻した。
「……そうだな」
「プラズマさん、なんとかして竜宮から出ましょう!」
珍しく落ち込んでいるプラズマにリカも声を上げる。
もう一度、皆で逃げる術(すべ)を考え始めた時、一つ目の、緑色をした龍が現れ、飛龍を止めに入った。
「飛龍、何をしているのだ……」
一つ目龍はあきれた声をあげる。どうやら竜神のようだ。
「ゲッ! オーナー! い、いやあ、これは……その~」
一つ目龍を見るなり、飛龍は急に大人しくなり、すぐに人型に戻った。
「客が全くおらんのだが、また勝手に竜宮を動かしたか?」
一つ目龍はやや怒りながら、若い男性の姿へと変わり、頭を抱えていた。
「オーナー……天津彦根神(あまつひこねかみ)か」
プラズマは目を細め、青年を見据えた。緑の長い髪にオレンジの瞳、頭に竜のツノ、ところどころに竜のウロコのようなものが見える。紫の袖無しの着物からは、たくましい腕が覗いていた。
「て、敵っぽくはないね……」
リカの言葉にアヤが小さく耳打ちする。
「この竜宮のオーナーで、龍神のトップ、アマテラス大神の第三子よ……リカ」
「え、偉い神様……」
リカは人間離れしている男を恐々見始めた。
「家之守龍神(いえのもりりゅうのかみ)、どういうことだ、起きなさい」
オーナー天津(あまつ)は気を失っていた地味子を揺する。
「……あいつ、そんな名前だったのか……」
プラズマが地味子の本名に驚いていると、地味子が勢いよく目覚めた。
「あ、あれ? 私……、って! オーナー天津様っ!? ヒィィィ! お許しを」
地味子は顔面蒼白で叫び、さらに飛龍にも鋭く声をかける。
「あ、あんたがオーナーがいない間にやるって言ったんだからね! 半分おどされたんだからね!」
火の粉が飛んできた飛龍は冷や汗をかきながら、オーナーにはにかんだ。
「ハードモードも悪くないかなって……」
「……やはり、お前か。飛龍流女神(ひりゅうながるめのかみ)、また勝手に竜宮を変えたな?」
「変えたなんてそんな……、竜宮自体はいじってねーよ。チュートリアルでよっわいツアコン置いて、勝てた奴を竜宮に入れるシステムにしただけ! 地味子は案内役と、能力使って竜宮外でもゲームができるようにしてくれていた。まあ、他の龍神はあんたからの罰を恐れていなくなっちまったがね」
飛龍は苦笑いを浮かべながら、オーナーに言い訳をする。
オーナーの目付きが鋭くなり、飛龍と地味子は口をそろえて言った。
「あの! ツアーコンダクターも道連れに!」
「当たり前だ……。お前達、全員厳罰。私がいなくなるといつもこうだ」
「ま、待ってくださーい! 私は脅されたんだってばぁ!」
地味子はあっさりオーナーに担がれ、情けない声をあげながら必死に言い訳をしていた。
「ちょ、ちょ、マジで竜宮をいじってはないんだっ! ちょっと雰囲気を変えただけでっ!」
続いて飛龍もあっけなくオーナーに抱えられる。
あっという間のできごとに、時神達は呆然としていた。
「ね、ねぇ、ぼうっとしている場合じゃないわ、プラズマ」
アヤがふと、プラズマの脇をつついた。
「な、なんだ?」
「普段竜宮から出ないオーナーが外出していたのよ? 東西南北、太陽、月の会議に出ていたんじゃないかしら?」
そこから先はわかるでしょと、アヤはオーナーに尋ねるよう、プラズマに目配せをする。
「はっ! ……そうか」
プラズマは気がつき、オーナーを呼び止めた。
「天津(あまつ)、六大会議に出ていたのか? 俺達は時神過去神、栄次を探しているんだ」
プラズマの言葉に眉を寄せたオーナーは地味子と飛龍を抱えたまま、振り返り、プラズマを見据えた。
「……礼儀はどうした?」
「え……ああ、失礼しました。私は時神未来神、湯瀬紅雷王(ゆせ こうらいおう)でございます。あなた様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
プラズマは冷や汗をかきながら、慌てて丁寧に名乗った。
それを聞きつつ、オーナーはあきれながらプラズマに返答する。
「私は竜宮城で龍神をまとめている、アマテラスの第三子、天津彦根神(あまつひこねのかみ)である」
「……んで、時神過去神、栄次を探してんだけど、見てない?」
オーナーは再び軽くなったプラズマに頭を抱えていたが、しっかり答えた。
「ああ、それについての会議に出ていたのだ。頭が重い。今回、竜宮は関係がないのだ。ただ、お前達時神が来たことで、無関係ではなくなってしまったが……」
オーナーの言葉に時神達は目を光らせた。