素直な感情

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ちょっと盛り上がり過ぎたな。携帯も忘れてったし。まっ、いっか。新しいやつを買うお金は充分ある。やっぱキャバクラは楽しくねえな。あんなのは仕事だから芝居してるんだ。
家を尋ねるとリビングの灯りが付いていた。母さんと茜、まだ起きてるんだ。
「ただいま。」
「おかえりー。」
廊下の角を曲がってリビングに入るとショールを被された知らない女性が床に座り、ソファー頭を乗せ、両腕で顔隠しいた。
「茜... お前、誰かを誘拐したのか。」
「失礼ね!」ワイングラスと手に持った姉が怒鳴った。当然、今のはジョークだ。
「あんたが大学に忘れ物が有ったからわざわざ彼女が持って来てくれたのよ。」この人、携帯を実家まで。でもどうやってここだって... もしかして、ストーカー?!
「だ、誰が?」
「黒木すみれさんよ。彼女。今は酔っちゃって寝ちゃってるけど。」
「何やってるんだよ、母さん。」
「だって... 若い子とお酒を飲みたかったんだもん。お酒大丈夫って言ってたのに。」
「でもなんでこんなところに。ベッドとかで休ませればいいだろ。」
「あんたが帰って来るのを待ってたのよ。あんたのベッドに寝かせていいかって。」
「なんで茜のじゃダメなんだよ。」
「だって!私の部屋、汚いもん!スーツケースとか荷物とかいっぱいあるし。」
「まあ、いいじゃない。男の子なんだから。」母さん...
俺の部屋別にいいけど、なんか行って欲しくない。
「ねえ、お兄ちゃん、お願い!」
「お前は俺の姉だろ。... うぅ......... じゃあ、連れてく。」
眠るすみれを俺はお姫様抱っこして、二階へと担いで行った。若干恥ずい、母さんと茜が俺のこんな姿を見ると後からいつもからかわれる。すみれ、以外と重い。まぁ、百七十センチくらいならこれくらいの体重だろ。階段を上がりながら彼女の寝顔を眺めていた。子供みたいに寝てやがる。ちょっと口開けてるし。
部屋に入って、俺のベッドの上に彼女を下ろした。布団を首元まで被し、机のスタンドをつけた。俺は流石に寝る気分ではない。さっきのキャバ嬢から無理ありケーキとパフェ食わせられたから、腹は甘い物で体中が元気だ。
「またうちに泊まってる。」眠る彼女に囁いた。手を出してみた。
彼女の髪の毛をそっと触れて、撫で始めた。髪はサラサラとした黒いシルク。この気持ちいい感触、止められない。すると、数秒くらい触れてると何故か楽しくなってきた。撫でが激しくなっているのに眠る彼女は全然反応しないなんて、笑える。
一分くらい触れたら、この部屋の反対側にある本棚があった。何年も読んでない本や昔のSilver Stainの写真集、雑誌や資料。ガラクタのような書物ばかり。だが、一つ引っかかった細長いノートがあった。俺はそのノートを取り出し、机に置いてそのノートの一ページ目を引いた。その第一ページ、俺の下手な英語の黒いペンの文字で書かれていた。
「Song Rylic Book for Silver Stain - 2007」
2007年、七年前か。七年前ということは... 中学生の頃か。だから下手な文字なんだ。つうか、どんなけ英語が下手なんだ?歌詞はLyricだぞ、バカ。次のページはこのノートの始まりのようだ。

ページの頭には日本語で書いてあった。覚えてもいないタイトル、曲名。「レイン」。
レインは雨。あの時期そんな時あったか?あっ、そうか。俺の初の彼女、泉のことか。六年前死んだやつ。なんだこの歌詞は。
「コーラス:
何年も待ち続ける
この雨が止む日
君の瞳のように
涙が大地へ降る
運命は運命。
治せない
その傷
君のエンドレスレイン」
... これって。そうか、思い出した。泉が死んだ原因は心臓のガンだったな。ガンだって知った時、泉は毎晩泣いてたな。それで結局、俺が転校した後亡くなったんだ。
次は...?
そして、俺はパラパラとこのノートを読み通した。最後のページまで。
最後のページは実際バンドの曲として利用した曲だ。Want To Beという曲。この曲を書いた理由は当然に覚えてる。あの日、たまたま母さんの買い物に付き合っていた時、あの幼稚園を見つけた。俺が通ってた幼稚園、高山幼稚園。俺は小さい頃はシャイだった。外見のせいで、女の子だと勘違いされたことも少なく、外で遊ぶのも嫌だった。だからいつも中で遊んでいるあの女の子と遊ぶことが多かった。俺はいつも思っていた。どうしてこの子は一人で平気なのかと。そして彼女はいつもこう答える:「私の友達は音楽だから」と。幼少期の頃はバカバカしいと思っていた。音楽は人じゃないと。でも小学五年生の時に初めてギターに触った時に音楽との友情がより深まった。この曲はそんなガキの頃の俺の彼女への質問ばかりだ。
「なんでそんなに輝くのか?
なんで自信があるんだ?
君は遠くの空に浮かび
俺は地に残る。
なんでそんなに特別なのか?
全然理解できない
いつか追いついてやる
I want to be like you」

「うん... うぅ... 私、寝ちゃてたんですか...?」すみれのあくび声が俺を覚ました。彼女は両腕を伸ばしストレッチをして正面に椅子に座っている俺を見た。
「ここ、何処?」
「俺の実家。」
「えっ?... 私、何してた。」
「携帯、届けてくれてありがとな。」
「はっ、そうか。私、お酒飲んじゃったんだ。って、いつ帰って来た?!」
「うん?多分一時間前くらいに。」
「そう... 拓海さ。」
「なんだ。」
「なんか、ごめんなさい。」
えっ、いきなり何謝ってるんだ?さっきみたいに赤い顔してないし、酔ってなさそうだな。何か変だ。
「なんだ、いきなり。」
「私、拓海のこと、誤解してたみたい。」
「どういうことだ。」
気になる。
「今まで私、拓海のこと恐れてたんだよね。」
「おいおい、なんだよそれ。」
「顔が二つあったり、三つあったり、最初に知った拓海の内面が怖くて、私に毎日付きまとっていたり。でも、お母さんと茜さんのお話を聞いてると、拓海は良い人なんだって思えてきて。ただ素直じゃないんだって。」
「謝ることはそれか?」
「違う。今日のこと、謝りたいの。拓海の存在が邪魔とか言っちゃって、ごめんなさい。かなり傷付いたよね。私だって誰かにそんなこと言われたらすごく傷付くよ。だって、実際の拓海は純情な人間なんだもん。だから、ごめん。」
俺は少し考えた。すみれ、俺と違って素直なんだな。俺が彼女の立場にいてもそう簡単には謝れない。
「それに、私、裏で拓海の悪口を言ったの。あいつは人を愛せないって。でも、人を愛せなかったら拓海のお母さんとお姉さん、あんなに幸せじゃないよ。拓海が書く曲にも愛が篭ってるのに。ごめんなさい。」
言葉が出ないな。
「許してくれる...?」
許すも何も、俺が今変だ。心が苦しいし、鼓動が早くなっている。おい、彼女は質問をしているぞ!答えないといけねえだろ!
「許す。す、す、素直に言ったから。」
「よかった!」
今の彼女に何故かキスしたい。自分自身の行動を止めるのには完全に手遅れだった。
「こっちこそ、許して。」
「へっ?ぬっ!」
俺は彼女の座った体制に合わせて近寄ってしゃがみ、右腕をベッドを掴んだ。俺の目はパッチリと閉まり、おそらく彼女は驚きのあまり開けたままだろう。

そして俺は決心し、もう自分に嘘をつかないことにした。俺の半分は認めたくなさそうだが、認めたがる俺の素直の方の味方している。唇の重ね合いを離した瞬間、俺は頭の中で言った。

俺はすみれが好きだ。

本当の君はまだ知らない。Where stories live. Discover now