嵐が来そう

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すみれ...
どうして森山さんと...?
嘘だろ、嘘だろ。
胸の中の体温が一気に落ちた。
森山さんはどんどん近づいて来るが、俺は彼女を見つめたまま。長い間会ってなかったから。このくらい二人は進行してたのか?すみれ、俺を見ろよ。おい、こっちを見ろよ!
「どうした三浦?」
あっ、もう目の前に。
「いや、なんでもないです。それより、彼女と何を...」
「すみれちゃんと?」すみれちゃん?森山さん名前で... 「ちょっと用事があってさ。別に大したことないよ。」大したことない?俺にとっては大きなことだよ。
「本当にそうですか。」
「... ああ、そうだが?」
「...」
すみれ、どういうことだよ。
「まぁ、俺行かないといけないから、またな。」森山さんは後ろのすみれに手を振って駅の方向へと走って行った。
...
!突然彼女の足は俺の反対側の道を走り出した!おい!逃げるなよ!俺はすぐに人混みの中彼女を追いかけた。俺にそんなに会いたくないのか?
「待てよっ!」
運良く、腕を捕まて彼女の動きを止めることができた。彼女は無理に離そうとしたがな。
「離してよ!」
「落ち着け!何なんだよ!いきなり逃げるなよ!びっくりするだろうが!」
「...」
暴れるなよ...
「どうしたんだよ。」
「...」
「おい。」
「.........」
「森山さんとはどんな関係なんだよ。」
「...」
「何か言えよ。」
「お肉!」
「はっ?」
ふと彼女は少し赤い顔をして振り向いた。
「買い物... 付き合って。」
買い物...?

***

もっと女子が(ぶっちゃけ俺も)好む服の買い物ではなく、近くのデパ地下のスーパーでの買い物。最近この辺のスーパーに通っていなかったからか、めちゃ寒いぞっ!おい、店長、夏は涼しくしたいが、客のほとんどが半袖で来てるのにエアコンを冬の気温に設定する必要ねえだろうが!!寒いの苦手だっつーのに。俺は無意識に腕を擦りながら入って行った。
ショッピングカートを押してる後ろ姿... いいな... って、すみれこそこの北極の中大丈夫なのか?!完全にノースリーブなのに... 凄え。
「なんで買い物なんて...」
「ダディーがシンガポールから帰って来るの。だから今日は家族でディナーなの。その為の食材。何作ろうかな...」
お父様がっ!てか、俺、すみれの家族のこと何もしらないな... イギリス人のお母さんがいることしか知らないし。イギリス人?幼稚園の時誰か金髪のお母さんがいた子がいた気がする。き、気のせいか。
「お父様はどこに勤めてるんだ?」
「ん?英語の大学教授よ。すき焼き?いや、熱いか。じゃあ、天ぷら?ざるそばと天ぷら。Okay, okay...」
俺は凍ったエビたちへカートを回す彼女に付いて行った。
「兄弟とかは?」
「妹と兄がいるわ。うわっ、なんで伊勢エビなんてここで売ってるんだ。意味わかんない。鯵の値段上がってるし...」
「歳は?」
「17と25。モデルと舞台俳優。こっちかな...」エビのタッパーをカートの中に入れた。
「名前は?」
「あーもうしつこいなぁ!ネギ取ってきて!」
「わ、わかった。」
ちょっと質問し過ぎたな。俺はもっと寒い野菜コーナーへ行った。一番下の透明の棚にあったネギを一本取って彼女の元へ戻ってネギをカートに入れた。
「へい。」
「ありがとう。」
「なぁ、森山さんとは...」
「妹の撮影に行ったら会ったの。あっ、最初会ったは拓海に... き、キスされた時で... 」
「今日は?」
「モデルの面接。」
「モデルの面接ね。えっ、モデル?」
もしかしてモデルとかやるつもりなのか?彼女は一旦止まって言った。
「うん。そう。」
「でもなんでいきなり...」
「さぁ。私、クラスガールっていう雑誌のディレクターさんに気に入られちゃったみたい。」
クラスガールか。芸能界への第一歩としては悪くないな。木村カエラとかモデルから始めてたし。
「いいんじゃね。挑戦してみろよ。」俺はそっとすみれの頭に手を置いた。目が泳いでる。はは、照れてる。
まぁ、とにかく今は一安心。

***
プルプルプルとすみれの携帯が鳴った。食材が揃った様で、俺は彼女を家へ送る。ふむ、いい計画だ。住所も知りたいし、もしかしたらご家族に「一緒に食べてく?」とか誘われて... 俺のことをすみれの両親に認められて、婚約を進められて... へへへ...
「もしもし?お兄ちゃん?」
「うん。今買い物してたところ。」
「えっ、何処って... ○○デパートだけど。」
「ああ、そう。ちょっと荷物あるから乗せてよ。」
「オッケー。バイ。」
お兄さんか。俳優の。
「お兄さん?」
「うん。近いから車乗せてくれるって。」
「そう。」
計画を変えよう。プランB。えーっと、お兄さんにちゃんとご挨拶して、気に入ってもらって、一緒に黒木家に潜入!いい!これでいい。
「でさ。」
「ん?」
「家に付いて来るとか考えてないでしょうね。」
「ん?」
はははは。何のことかな...
「どっち道無理よ。」
「なんで。」
「お兄ちゃんが拓海を家に入らせないから。たとえ私の許可を得ても大のシスコンには勝てないわ。」
「...」
「Good luck.」
彼女の久しぶりの英語の発音にキュンと胸が鳴った。普段の日本語よりもっと奥深い色気のある姉御の声。もっと聞きたくなる。
プルプルプル。
「お兄ちゃん?着いた?うん、今行く。じゃあ。」
ピッ。
「じゃあ、行くね。」
と、止めないと。じゃなくて、何か言い訳...
「に、荷物!車まで、持つ。」
「えっ、いいよ。私、こう見えても力持ちだから。」
「いやいや。持たせろ!」
無理あり俺は彼女が持ったプラシックバッグを引っ張った。
「あーもう!わかった!一個持って!」
やっと渡してくれた。デパートのエレベーターに乗って、入口へと出て行くと、夕方のオレンジ色がが東京の空を照らしていた。
「あっ。」
銀色のプリウスが俺たちの目の前に現れた。おそらくお兄さんなのだ。よし、覚悟はできた。グッドスマイルオン。
運転席の窓がスラーと開いた。
「よっ。」
彼女は軽く微笑んだ。これがお兄さんの紘さん。男の俺でも見てるわ。イケメンじゃん。しかし、彼の笑顔が俺を見た途端曇った。曇り、嵐が起こる直前の睨む様な目。会ったばかりで嫌われそう。
「おい、誰だこいつ。」
俺は一気に唾を飲み込んだ。やばい。
「あっ、えっと... その... と、友達。」
うぅ... 友達という言葉が胸に刺さる。
「友達?このチャラそうな男が?すみれの友達?」
こ、この野郎... ふぅ... 落ち着け。あくまでこの人はシスコンだ。最初は認められるわけではない。大丈夫。
「こんにちは。」俺は頭を下げて言った。
「名前は?」
「み、三浦拓海です。」
「なんだそれ。三浦翔平かよ。チッ。」
「ちょっとお兄ちゃん、失礼でしょ。」
無言だ。
「こんな奴が俺の妹と一緒につるんでるんなんて、危ねえ。いつ何をするかわからないし。」
「お兄ちゃん!」
「だいたい、なんだそ服は。悪さでもしてるみたいじゃないか。」
「Would you shut up?! Why are you so being so disrespectful?! (ちょっと黙ってくれない?!どうしてそんなに無礼な態度を取るの?!)」
?!ちょっと、ここで喧嘩するなよ...
「二人、落ち着いて...」
「お兄ちゃんが心配しなくていいの。私はもう子供じゃないし、バカじゃないから。」
彼は目を回してため息をついた。
「わかった、わかった。帰るぞ。」
すみれは俺からプラスチックバッグを引っ張り、プリウスのトランクに入れ込んだ。
「Bye.」
そう言い残して車は兄弟を乗せて走り出した。

本当の君はまだ知らない。Where stories live. Discover now