The One I Love Belongs to Som...

By CLynnLandAnnex

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小説キャンディキャンディファイナルストーリー後に書かれた、Alexa Kang による二次小説を、ご本人の許可を得て翻訳、編集した日本語版です。編集にあたり、若干のご協力を頂きました。いがらしゆみこ、名木田恵子両氏に敬... More

第1幕序曲 第1場テリィからの手紙
第2場回想アルバートへの手紙1921年3月
第3場アーロンの告白
第4場回想アーチーとアニーを訪問
第5場回想パティへの手紙
第2幕開幕 第6場アーロンのプロポーズ
第7場 "Broadway Brevities" N.Y雑誌記事1918年11月
第9場 "Broadway Brevities" N.Y 雑誌記事 1920年11月
第10場 "London Tattler" ロンドン雑誌記事 1922年11月
第11場 "New York Daily News" N.Y 新聞記事 1923年7月
第12場 "Town Topics" N.Y.雑誌記事 1924年9月
第3幕小夜曲 第13場ポニーの丘に来るテリィ
第14場アルバートへの手紙
第15場ポニーの丘での再会
第16場クレアモント・インへの訪問
第17場ウェディングドレス
第18場アニーへの告白
第19場ポニーの家で待つアーロン
第20場キャンディを詰問するセシリア
第21場テリィを再訪
第4幕幻想曲 第22場 二人だけの4日間
第23場ヒルクレスト荘
第24場森の中の人
第25場カサンドラとの晩餐
第26場原っぱでの午後
第27場わたしの愛しているひと 
第5幕終幕 第28場カサンドラの贈り物
第29場キャンディの窮地
第30場アルバートとソフィアの訪問
第31場返された日記
第32場セシリア、テリィと対峙
第33場ポニーの丘でアーロンと対顔
第34場最終決断
第35場再会
第6幕アンコール 第36場アーロンからの手紙
第6幕第37場テリィの帰宅
エピローグ

第8場アルバートのピアノ

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By CLynnLandAnnex

テリィは、今では自分の家にある、そのピアノの前に座っていた。

ピアノを見る度に、その美しさに感嘆せずにいられなかった。

それは突然、動物好きで、かつて路上での喧嘩から助けてくれたアルバートの手紙によってもたらされた。

やあテリィ

突然の手紙で失礼するよ。

でも君を頼っても良いだろうか、旧友よ。

君は、僕の記憶がすっかり戻って、また旅をしている事を喜んでくれるだろう。

僕の家族が、サン・パウロで事業をしていると知ってね、今はそこで手伝いをしている。

最近、ニューヨークにいる遠い親戚が亡くなったんだ。

彼は骨董品の愛好家でね。

どうやら貴重な所蔵品の中から、骨董のピアノを僕に遺してくれていたんだよ。

僕は全く音楽には興味がないのだが、このピアノは、かなりの価値があると言われてね。

まあとにかく、僕を思ってくれた人からの贈り物だし、きちんと取り扱いたかったんだ。

ところが、サン・パウロにいる僕には、今受け取るのは不可能だ。

アメリカに現住所も無いし、何処に送るにも不都合でね。

そんな時に、君がニューヨークにいる唯一の知り合いだと、思い出したんだ。

僕の為に保管しておいてくれないだろうか?

次にアメリカに帰った時は、受け取りに行くと約束するよ。

ニューヨークにいる故人の弁護士と、財産管理人には君に連絡するよう伝えておいた。

頼りにしていいんだろう、旧友?恩に切るよ。

心より

アルバート』

******

テリィは、アルバートがキャンディの事を何も言っていないことに気づいた。

(──アルバートさんは、もうキャンディとは一緒に住んでいないってことか。キャンディはまだ一人なのだろうか......)

テリィを訪ねて来た弁護士が、この手紙をくれた。その後間もなく、テリィの許可で、ピアノは自宅へと届けられた。

テリィも驚いたが、それは真実、絶妙な楽器だった。

保管状態も抜群だ。

全体はローズウッドから作られていたが、脚は黒い蛇紋石だった。

彫刻のデザインは洗練されていて、一流の職人によって施されていた。

テリィがいくつか鍵盤をたたくと、奏でる音は、研ぎ澄まされた小さな鐘が鳴っているようだった。

テリィがそのピアノを初めて弾いた途端、ふいに思い出がよみがえった。

『もっとぼくのピアノを聴きたかったら窓を飛び超えておいで。さあ、メスザルならお得意だろう』*5

『メスザル、メスザルって、ほんと、失礼なひとね!』

穏やかな微笑が、テリィの顔に浮かんだ。

テリィは、モーツァルトの子守唄を弾き始めた。

テリィは、背後でスザナが見ていることに気付いていた。

しかしピアノを弾いているうちに、スザナがそこにいるにも関わらず、一人になれる空間へと押し出されているように感じた。

テリィは、すぐに音楽にのめり込んでいった。静かな子守唄は終わり、荒々しいふざけた曲調へと変わった。

テリィが鍵盤に沿って指を走らせると、音符は息を吹き返す。

『なんて曲なの?』*6

キャンディは、テリィの後ろに立つ。

『即興だよ。題して、"ターザンそばかすとメスザルのテーマ "!』

自分でも気付かぬ内にテリィは、吹き出した。

ピアノを弾きながら、テリィはキャンディとのピアノレッスンを思い出していた。

テリィが弾き終わると、スザナがこう言うのが聞こえた。

「テリィ、あなたがピアノを弾けるなんて知りませんでしたわ。何に笑っていらしたの?」

──テリィは鍵盤を見つめ、スザナを見ずに答えた。

「──何でもない。笑ってなんていないさ」
平静さを無理矢理装った。

張り詰めた静寂に包まれる。

(──我慢できない。スザナのそばにいるべきなのに、スザナを......見たくもない )

テリィは、またピアノを弾き始めた。

(ピアノはいい。張り詰めた沈黙を埋め尽くすには、いい方法だ )

スザナは、テリィがピアノを弾くのをただじっと見ていた。

テリィは、音楽にのめり込んでいった。

俯いた瞳のままのテリィは、この世の全てから切り離された空間に包まれ、そして、そこはスザナには手の届かない場所であった。

するとテリィの奏でる音楽は、突然陽気で明るい踊るようなモーツァルトの楽曲から、心をかき乱すものへと変わった。

調和もなく、全くもってバラバラだった。テリィは、音楽そのものが心をかき乱すように夢中で弾いた。

不協和音がやっと終わると、スザナはテリィに尋ねた。

「......何ておどろおどろしい音楽なのでしょう、テリィ。今弾いていたのは何なのですか?」

テリィは、イライラしないように気をつけ、間を置き、静かに言った。
「シェーンベルク 3つのピアノ曲 op11」

そうしてテリィは、また同じ曲を弾き始めた。

同じ部屋にいながらにして、スザナには、テリィがピアノを弾いている時以上に、テリィの存在を遠く感じることは、無かった──。

********************************
参考資料
*5
名木田恵子著
小説キャンディキャンディファイナルストーリー下巻
祥伝社 2010年11月10日 発行
53頁

*6
上記同
92頁

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