第30場アルバートとソフィアの訪問

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コーンウェル宅の居間で、キャンディは夏の雨を窓から眺めていた。

テーブルにはアーロンからの小さな花束が置かれていた。

最後に会ってから、毎日欠かさずキャンディに花束を贈ってきた。

3日前にここに来てから、一歩も外に出ていなかった。

キャンディは、テリィが何を考えているのだろう、アーロンは何をしているのだろうと思いを巡らせていた。

突然キャンディの思考は、甘くねだる声に中断させられた。

「キャンディはどこ?ねぇ、キャンディはどこ?ぼくにキャンディをちょうだい!」

キャンディは、居間の入り口から聞こえる甘い声の方へと目を向けた。

3、4歳位の、金色に輝く髪に美しい深い青い瞳の男の子が走って来た。

男の子は、キャンディの側に来るとキャンディを見上げた。

その笑顔は、まるで天使のようだった。

「ぼく、アンソニー。ねぇ、キャンディ持ってる?」

男の子はキャンディのドレスを引っ張りながら訊ねた。

キャンディは、男の子を見つめ返した。

信じられないものでもみたように驚きを隠せない。

なんて可愛らしいのだろう。
アンソニーにそっくりの男の子。

きのあまり、口元に手をあてた。

「ぼく、リースカップが好きなんだ。あとね、クマのグミも!」

「どこから来たの?」

男の子を抱き上げながら、キャンディの心は溶けてしまいそうだった。

男の子の笑い声はクリスマスの鈴の音のようだった。

女性の呼びかける声がする。

「アンソニー、アンソニー、走ってはだめよ!どこにいるの?」

その女性が、居間に入って来た。

彼女の美しい髪は、滝のように背中にたなびいていた。

瞳は、曙の星のように輝き、唇は柔らかいピンクの薔薇のようだった。

「ソフィア!」

キャンディは、思わず叫んでしまった。

ソフィアは、内輪だけで行われたシカゴの結婚式で会った時のまま、美しかった。

「キャンディ!」

そう言ったソフィアの後ろから、懐かしい愛らしい笑みをたたえたアルバートが姿を現した。

二人を目の前にして、キャンディの気持ちは高ぶってしまった。

「まさに待ち人来たり、ってところかい?」

アルバートとソフィアの後に続いて、アニーと一緒に居間に入って来たアーチーが、言った。

「アルバートさん!ソフィア!」

キャンディは、男の子を抱いたまま二人に近づいた。

「アンソニーにはもう会ったようね」

ソフィアは笑いながら言った。

「アンソニー?アンソニーなのね?」

キャンディは男の子を見ると、柔らかな金色の髪をなでた。

キャンディの瞳は嬉し涙でいっぱいになった。

一瞬、アンソニーが生き返ったようだった。

「あゝアルバートさん!ソフィア!なんて素晴らしいの!なんて愛らしいのかしら!」

「フロリダを出た時に、キャンディに会いに行くと言ったんだよ。そうしたら、ここに来るまでずっと、ぼくのキャンディはどこって、そればかり訊くんだ」

アルバートの言葉に、皆が笑った。

「さぁ、アンソニー!アーチー叔父さんが、たくさん "キャンディ" とおもちゃを用意しておいたよ」

アーチーが、言った。

「ヤッター!」

アンソニーは叫ぶと、床に下りようと小さい身体をくねらせた。

キャンディが床に下ろすやいなや、アンソニーは、アーチーに駆け寄りアーチーの手を掴んだ。
アンソニーの手を取りアーチーは居間から出て行った。


子供の扱いには慣れているようだった。

「アーチー、甘やかさないでくださいね」

ソフィアはそう言うと、アニーと一緒にアーチーの後に続いた。

「やぁ、キャンディ」

皆が去ると、アルバートが言った。

キャンディが決して忘れられないその笑顔──。

いつものように、キャンディに起こった数々の悩みを和らげてくれるその大きく広げられた腕。

キャンディは走りよると、アルバートにしっかりと抱きついた。

「アルバートさん!アルバートさん!!」

キャンディは、泣きながら言った。

アルバートに会って、キャンディは嬉しさのあまり言葉を失っていた。

「......会いたかったのよ、......とっても」

「すまなかったね、キャンディ、手紙もろくに書かずにいて。特にフロリダの不動産の取引関係で、忙しくなってしまったんだよ。そうしているうちに、アンソニーも生まれて時間が過ぎてしまった......」

「愛くるしい子ね、アルバートさん!」

キャンディは、笑みを浮かべて言った。

「それに、......アンソニーと名付けるなんて。こんなに素敵なことはないわ!」

アーチーが再び居間に戻って来た。

「アルバートさん?キャンディ?こっちに来ないのかい?」

再び、皆が笑った。

ほんの少しの間、キャンディは自分が抱える問題を忘れて、リトル・アンソニーの楽しげな笑い声に満ちたひと時を楽しむのだった。


The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now