第2場回想アルバートへの手紙1921年3月

10 0 0
                                    


親愛なるアルバートさんへ

──いかがお過ごしですか?

冬も、もうすぐ終わりです。

春の訪れと共に会いに来てくれたら良かったのに。

ソフィアの妊娠のニュースに私達は皆、とても喜んでいます。

──もうすぐお父さんになるのね!

彼女のそばでお手伝いが出来たらしたいわ。

ソフィアって、とても美しくて愛らしい女性なんですもの。

アルバートさんが彼女と結婚した時は、アードレー家の大総長を
ブラジル女性に奪われるなんてと、シカゴ中の上流社会が嘆いた
のよ ( 冗談よ!本当は、アルバートさん達が盛大な結婚式を挙げ
なかったので、お決まりのお祭り騒ぎで、名士の皆様が自分の自
慢話を出来ずに落胆していただけよ )

ここ数ヶ月の間に、沢山の嬉しい事がありました。

去年の晩秋に、マーチン先生の元後輩だという人が訪ねて来ました。

彼の名前は、アーロン・ハーレーといって、マーチン先生が
ハッピー診療所を開業する前に働いていたシカゴ病院で、一緒に
働いていたそうです。

ハーレー先生は、ボストンに転院する前にわざわざ挨拶に来てく
ださったんですって。

彼がハッピー診療所を訪ねる道すがら、ポニーの丘を登ってきた
時の事ことを、今でも覚えています。

晩秋の風が、彼の灰色味を帯びた金髪の前髪に吹き付けてい
ました。

彼のほほ笑みは、まるで一筋の太陽の光のようでした。

ハーレー先生の滞在中に、町でインフルエンザが流行ってしまっ
て、先生はポニーの家の子供達や近所の人達の治療の為に、短か
かった予定を延長してくださったのよ。

ハーレー先生は、素晴らしいお医者様です。

ポニーの家に来る時は、治療している子供達にと、いつも
キャンディを持ってくるの。

レイン先生に見つかると、子供達は叱られて、没収されて
しまうのだけれど、でもハーレー先生ったら、返してもらったキャンディを、帰る前にこっそりまた、子供達にあげてしまうの。

町のパン屋のワトソン老婦人が、インフルエンザをこじらせ肺
炎に掛かった時は、一晩中寝ずに看病してくださいました。

それをきっかけに、町中がハーレー先生の出発を惜しんでいまし
た。

ところが突然、マーチン先生が引退するって決めたのです。

マーチン先生は、年もとってきたし、町には熱意に溢れた若い医
師が必要だっておっしゃって。

マーチン先生ったら、昼夜問わずハーレー先生に、ハッピー診療
所を引き継いでくれって頼んでいました。

ハーレー先生が、マーチン先生の申し出を受入れるまで、そんな
に時間が掛からなくて、驚きました。

ハーレー先生が断ったのは、ボストンでとても評判の良い病院で
のお仕事だったから。

町はもちろん、新しいお医者様が留まってくれる知らせに大騒ぎ
よ。

マーチン先生はもう引退して、毎日ほとんど知恵の輪で遊んでいます。

春が来たらもっと釣りをして過ごすそうです。

それから、可笑しなことがあるのよ。 

ハーレー先生が、ハッピー診療所を引き継いでから、信じられな
いくらい女性の患者さんが増えたんです。

町中の未婚女性が頻繁に、それこそ様々な些細な怪我や病気を理
由に、新しいハンサムな若いお医者様に、救いを求めて来院して
きます。

わたしにはそれがとても滑稽で、先生をからかって毎日楽しんで
います。

"ドクターラブ伝染病" って呼んでいるのだけれど、それを言うと
ハーレー先生ったら本気でわたしを怒るんです。

でも、この常連の女性患者さん達のおかげで、ハッピー診療所の
経営は、上昇傾向にあります。

ハッピー診療所の経営は安定しているから、アルバートさんも安心して
くださいね。

ハーレー先生のお父様は、何年か前に亡くなっているそうです。

元々、ボストンで一緒に生活する予定だったお母様のジェーン夫
人と妹のセシリアをもうすぐここに呼び寄せて、一緒に暮らすそ
うです。

ジェーン夫人はドレスメーカーで、ここサウス・ヘヴンに新しく
洋装店を開く予定でいます。

ジョルジュによろしくお伝えください。


愛を込めて

キャンディ

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now