第29場キャンディの窮地

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1年前のクリスマスに、アーロンは自分で彫ったラヴスプーンをキャンディにプレゼントしてくれた。

それは今もキャンディのベッドの上の壁に飾ってある。

キャンディはそのことを思い、温かい愛情が湧き上がってくるのを感じた。

ハーレー宅の玄関の扉を叩きながらも、キャンディの気持ちは沈んでいた。

扉を開けたのはセシリアだった。

「キャンディ!」

キャンディの名前を耳にして、アーロンも出迎えに来た。

「キャンディ!」

アーロンの声は、会えた嬉しさで満ちていた。

しかし、アーロンの幸福感は、より一層キャンディに罪悪感をもたらした。

アーロンは、キャンディを引き寄せて抱きしめた。

キャンディも抱きしめ返していたが、アーロンの顔を見上げ、訊ねた。

「──二人だけで話したいのだけれど......」

「もちろんさ」

アーロンはキャンディの手を取ると、家の外へと導いた。

セシリアは疑惑めいた視線を向けていた。

外に出て二人きりになると、アーロンはキャンディの苦渋に満ちた表情に気づいた。

「何か、......あったのかい?」

キャンディの瞳から涙がこぼれだす。

「......結婚式、......来月には挙げられないの......」

「......どうしてだい?」

アーロンは、困惑して訊いた。

「......アーロン、あなたをとても愛しています。......でも、ここ数日の間で、......他の男性のことも、とても愛していることに気づいてしまったの......」

キャンディは、泣きながら告げた。

驚きを隠せずアーロンは訊ねた。

「キャンディ?一体、......何を言っているんだい?......誰のことを言っているんだい?」

「......ずっと昔から知っている人なの。わたし達は、......とても愛し合っていたわ。でも、......別れてしまった......」

そうして、キャンディは、テリィのこと、スザナのこと、ニューヨークを去ったいきさつを話し始めた。

キャンディの言葉は涙混じりで、泣き止むことも出来なかった。

アーロンは、ただただ驚くばかりで、キャンディが何を伝えようとしているのかわからなくなった。

「......テリィが、......わたしに会いに、......ここに来たの。婚約しているって伝えたわ。......そしてテリィにはノーって言おうとしたのよ。......でもわたし、......でもわたし......」

アーロンは言葉を失い、キャンディを見つめていた。

やがてキャンディは息を整えると、アーロンの顔を見た。

キャンディは、自分が与えてしまった苦しみに満ちたアーロンの瞳を見た。

そして、自分の胸にはナイフが突き刺さっているように感じていた。

「......愛しているわ、アーロン。でも、......テリィのことも愛しているの。 ......どうしたらいいのか、分からないの。でも、他の男性を愛しながらあなたと結婚するのは、あなたへの裏切りだわ。......ごめんなさい。......本当にごめんなさい......。あなたがわたしを許してくれるのか、今もまだわたしと結婚したいのか分からない......。でも、あなたには知っておいて欲しかったの。あなたには、......正直でいたいの......」

The One I Love Belongs to Somebody Else    〜それでも君を愛してる〜  By Alexa KangWhere stories live. Discover now