2−1 ズレ
地下鉄では、グラスに流れる停車駅の表示を眺めていた。
いくつかの駅に停車し、そのあとに教学院への駅に停まった。私はそこで降り、教学院へと向かった。
教学院の入口で端末に触り、そして雑務部の部屋でも端末に触り、中に入った。
さらに私は、そして同じく次の班の人間は、さらに奥の待機室へと進んだ。6476も少し前に来ていたようだ。
待機室からは、前の班の人間が用具室で用具を整理し、帰り支度をしている様子が見えた。
前の班の一人がこちらに入ってくると、7018に挨拶をし、握手をしていた。二人とも淡い青色のつなぎに、濃い青色のラインが三本、そしてくすんだ緑色のスラッシュが入っている。Blue-3-Green。肉体労働階級、3位、エンハンスト=3。各班の班長くらいの階層だ。握手で互いのPANを接続し、引き継ぎを行なっている。
7018は握手の後、3471の前に行った。3471は前の班の上司と握手をしていた。二人は淡い青色のつなぎに、濃い青色のラインが二本、そしてくすんだ緑色のスラッシュが入っている。肉体労働階級、2位、エンハンスト=3。3471は私が属する班の上司だ。前の班の上司との握手が終ると、3471は今度は7018と握手をした。
フォーーンと、今度はサイレンが大きく鳴った。
前の班の人たちは、静かにあるいは話しながら部屋から出て行った。遊興館へ、という声も聞こえた。
「よし、少し話を聞いてくれ」
3471が声を挙げた。
待機室にいる30人ほどが、全員3471に顔を向ける。3471と7018を除き、Blue-4だ。だが、その中でもBlue-4-Blackは私一人。
「前の班からの引き継ぎを受けた。問題はない。引き継ぎには」
そう言って3471は私に顔を向けた。
「ただ、0818、君はこの数日ノルマをこなしていない」
私はどういうことかわからなかった。
「収集するゴミの量がノルマに達っしていない」
「いや、それは出されているゴミの量が少ないからで......」
思わず私は言った。
「それが問題ではないことはわかっているな? 君が収集している量が最適化システムが言っている量に達っしていないことが問題だ」
出ていないものを、どうやって集めろと言うのか。
「それとも君は最適化システムに、ひいては総統たち、さらに言えば統括者に反論をするつもりかね?」
私の表情に、反論が浮かんでいたのだろう。
「礼賛劇場の二体の立像。あれらが象徴する、法と社会に反論をするつもりかね?」
私は苛立ちを抑えるために、一度大きく息を吸い、そして吐いた。
「その行動は、社会への反論と考えていいな?」
「いえ、どうすればノルマを達成できるかを考えたのです」
無難な答を私は口にした。
「ふむ。Blackは」
そう言いかけ、3471は一度首を振った。
「いや、失礼。そういうつもりではないのだ。君を侮辱するつもりも、社会への反論をするつもりもない。失礼」
さぁ、実際にはどうなのかと思う。
「ともかく、最適化システムの指示に従いたまえ」
3471は一同を見渡した。
「では、法と社会に感謝し、よろこんで私たちの仕事をしよう。あぁ、それと0818、仕事の後、一緒に自己批判療法を行なおう。私もどうかしていた」
3471は満足気にそう言い、そして皆に仕事を始めるように促した。
各人は用具室から用具を取り、台車に乗せ、教学院の中へと散らばって行った。
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よろこびにつつまれて
Science Fictionよろこびにつつまれた幸せな世界。 ザミャーチンの「われら」、ハクスリーの「素晴らしい新世界」、オーウェルの「1984年」などなど、そういうのがいろいろ入っています。