「は、はい......。」
また不安げな顔に戻されたタニは身体を震わせながらリュウの言葉の続きを待った。
「時間厳守、ルールは守る、客に対する言葉遣い、これは必ず守る事。それから、遅刻した者とルールを破った者は例外を除いて厳罰の対象だ。わかったか?」
「は、はいぃ!」
リュウの低く鋭い声にタニは震え上がった。
「とまあ、こんな感じだな。オーナーは厳罰も容赦ない。注意しろよ。採用されたらな。合否はのちにオーナーが伝えるだろ。この面接内容とお前の外見、やる気、一生懸命さをオーナーに報告しておくから採用されたらまた会おうぜ。」
リュウは鋭い感じを解き、柔らかい笑みを浮かべた。
「は、はいぃ!お願いします!」
タニは背筋を伸ばし、再び深くお辞儀をした。
タニが意気込んでいるとガララと障子戸が開いた。ここは古民家のような造りである。障子戸も立て付けが悪いのかスムーズには開かなかった。
「......ん。客だな。ちょっとどいてろ。邪魔だ。」
リュウが再び鋭く言い放ったのでタニは慌てて横に避けた。障子戸からこれから竜宮のツアーを頼みたい客神がぞろぞろと入ってきた。
「はい。こちら、竜宮ツアーの組み立て、それからご案内をさせていただいております。わたくし、ツアーコンダクターの『流河龍神』でございます。本日はどういったご用件で?」
リュウが先程とはまったく違う話し方で客の相手をしていた。
「顔もニコニコ......。」
タニはリュウの変貌ぶりに驚きつつ、どこかかっこよくも見え、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
タニはなぜだか竜宮の面接に合格した。リュウに感謝の念を抱きつつ、夏も近づく竜宮城にやってきた。ここは竜宮のリゾート地のビーチ前である。まだ時期は早いので目の前の美しい海に入って遊んでいる客はいない。
タニはこの美しい海辺でなぜか待たされていた。
「あー、わりぃな。時間ぎりぎりになっちまったぜ。ああ、俺様の事、覚えてるか?」
タニがぼうっと待っているとリュウが慌てて走ってきた。
「あ、リュウ先輩ですね!この間はありがとうございました!」
「りゅ......リュウ先輩だと?」
タニの深いお辞儀をリュウは戸惑いながら見ていた。
「無事に合格できました!今日は竜宮で働く初日なのですがこの海辺で待つようにとの指示で......」
「ああ、そりゃあ、俺様を待てっていう指示だぜ。これから俺様が竜宮へ行く門を開く。ちなみに竜宮はこの海の中だぜ。そんでお前には従業員用の入り口の開け方を教えてやる。後、一、二か月もすりゃあ、ここは観光客で一杯。繁盛繁盛の地獄が始まるわけだ。従業員用の入り口の開け方がわからなきゃあ、一生竜宮には入れねぇよ。」
「りゅ、竜宮って海の中にあるんですね......。」
タニの発言にリュウが盛大にため息をついた。
「はあ......お前、そんなことも知らずに面接受けに来たのか?正確に言えばこの海の下だ。まあ、行ってみりゃあわかるぜ。」
「は......はいぃ!お、お願いします!」
タニが背筋をピンと伸ばしてリュウに言うとリュウはケラケラと笑っていた。
「ははは!あんた、かてぇな。ガチガチだ。緊張してんのか?」
「は、はぃい!た、谷村の信仰心のため全力で頑張りますっ!」
タニの生真面目な返答にリュウはさらに笑い出した。
「はははは!ダメだ、なんかツボに入った......。ひひひ......。『は、はいいっ』って......はははは!」
リュウがデカい声で笑っていると横から突然女性の声が聞こえた。
「もし......リュウ様......。......と、タニ様?」
(2017完)ようこそ竜宮城編ドラゴンパーク
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