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おやゆび姫 Little Tiny or Thumbelina ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen 大久保ゆう訳
むかし、一人の女の人がいました。その女の人はかわいい子どもをさずかりたいと思っていました。けれども、願(ねが)いはいっこうにかないませんでした。心から強く願っても、かないませんでした。日々をすごすうち、ついにいてもたってもいられなくなって、魔法(まほう)使いのおばあさんのところへ行きました。 女の人は言いました。「かわいい子どもがほしいのです。どうしてもほしいのですが、どうにもならないのです。どうすれば子どもが出来るのですか。」 すると、魔法使いのおばあさんは答えます。「ふぉっ、ふぉ。そんなことはたやすいことよ。ごらんあれ、ここに一つぶの大麦がある。これをそんじょそこらの大麦と思いなさんな。畑にまく麦や、ニワトリに食べさせる麦とは別物じゃ。特別な大麦だよ。これをな、植木ばちの中に植えるのじゃ。すると、何かが起こるはずじゃよ。ふぉっ、ふぉ。」 それを聞いて女の人は、「その大麦をわたしにください。」とたのみました。 「しかし、これは銀貨十二枚ないとわたせんよ。それでもよいのかな?」と、魔法使いのおばあさんがたずねると、女の人はこくりとうなずきました。おばあさんは大麦を女の人の手の中ににぎらせました。 「ありがとうございます。」と、女の人はお礼を言って、魔法使いのおばあさんに銀貨を十二枚わたしました。 女の人は家に急いで帰りました。帰るなりさっそく植木ばちを出してきて、中に麦を植えました。女の人はじっと植木ばちを見つめて、何が起こるか待っていました。 「いったいどうなるのかしら。」と女の人が考えていると、おどろいたことに土の中がもぞもぞ動いていました。 芽(め)が土の中からのびてきたのです。にょきにょきのびて、しだいにはっぱをつけました。まるでチューリップのようでした。それからもどんどん育っていって、あっという間に大きなつぼみをつけました。赤色のつぼみでした。しかし、つぼみができると急に静かになりました。ずっとつぼみは閉じられたままでした。 女の人はその後もじっと見つづけていましたが、なかなか花が咲かないのに気づくと、ため息をつきました。 「それにしても、きれいなお花ね。」と、女の人は言って、赤い花びらにキスをしました。 花びらはきらきら光っていました。女の人がなんどもなんどもキスをすると、ぱっと花が咲(さ)きました。本当にチューリップが咲いたのです。でもやっぱり、普通のチューリップでした。 女の人はチューリップを見て首をかしげていると、花の真ん中に人がいることに気がつきました。つやつやした緑色のおしべにかこまれて、とても小さな女の子がかわいらしく座っていたのです。女の子はおやゆび半分の大きさしかありませんでした。あまりにも小さいので、女の子は『おやゆび姫(ひめ)』と呼ばれることになりました。 おやゆび姫は女の人にゆりかごをもらいました。きれいにみがかれたクルミのからの上に、スミレの花びらをシーツ、バラの花びらをしきぶとんにしたきれいなゆりかごです。お月さんが出ている間にはそこで寝て、お日さまが出ている間はテーブルの上で遊んでいました。テーブルの上に、女の人が用意してくれたお皿がありました。水がいっぱい入っていて、お皿のふちをお花の輪(わ)っかでかざってありました。お花のくきは、水にひたしてありました。 お皿の中では、おやゆび姫は大きなチューリップの花びらがボートがわりです。白鳥の毛で作ったオールを二本使って、花のボートをこいでいました。左右にゆらゆらゆれて、ボートの上から見える景色(けしき)はとてもここちよいものでした。また、こんな小さいおやゆび姫でも得意なことがあります。この世のだれにも負けないくらい上手に、甘くやさしく歌えるのです。
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