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式見蛍の生活を見ているとつい錯覚してしまいがちだったが、今更ながらに、私は人間というものに幻滅をしていた。やはり式見蛍は稀に見るお人よしの部類だったらしい。
武内 護、18歳。今年から某大学に入学し、正に希望に満ちたキャンパスライフを謳歌中の青年だ。......私の元クラスメイト。正直殆ど覚えてなんてなかったけど、確かに、クラスメイトではあったようだ。 他人から抱かれる印象は「寡黙で真面目な人」。これといった際立った特徴の無い顔立ちと体格に、大きめの眼鏡、そして少し病的に白い肌。典型的な文系少年A。 ......外部から見る分には。 私がプライベートに入り込んだ瞬間に、その印象は180度反転する。 一人になるとまずムカついた人物に対するのろいの言葉を延々と呟き始める。私でも確かに「アイツ、ムカツクなぁ」ぐらいは愚痴ることもあるが、彼のそれは五分間ほぼ息継ぎをしていないんじゃないかってぐらいに続き、最後には関係の無い言いがかりのような文句まで言い始めて勝手に恨みを募らせる。 家に帰ると、室内にはベタベタとアニメのポスター。別にそういう趣味を否定はしないが、この人の場合はそれらのヒロインにいちいち声をかけたり頬ずりしたり、果ては勝手に怒って破り捨てたりと、まあ、なんていうんだろうか......「内弁慶」の最上級みたいな生活をしていた。 一人暮らしだが、式見蛍のように家事をするつもりはないらしい。というか、どうやらこの春から初めて実家を離れたようで、今はその解放感に身を任せているようだ。親からの仕送りは趣味に消え、金がなくなると「教材を買ったら足りなくなった」と親から引き出す。そこに引け目はなく、親は親ですんなり渡すようである。 なんとなく、コイツ、バイトとかしたことないだろうなと思った。......私もしたことないけど。 当然、溜まった洗濯物は親に郵送。下着に関してはすぐ廃棄し、コンビニで新しいものを買ったりしていた。部屋はぐちゃぐちゃのくせして、妙に潔癖な部分もあるらしい。......前に見た式見蛍のことも相俟って、捜査と言えど、彼の生活の密着は正直かなり気が滅入った。 カーテンで締め切られた暗い室内でパソコンのゲームにいそしみ、時に画面に向かって怒号をあげたり、時には画面上のヒロインに向かって愛を囁いていたりする。 ......そういうのを否定はしないけど......と言おうと思ったけど、ごめん、だめだ、偏見と言われてもかまうもんか。ごめん、正直、 「キモイ......」 それが滅茶苦茶素直な感想だった。いや、ホント......別に、人の趣味はそれぞれでいいとは思うのよ、私も。でもね......やるにしても、付き合い方が健全じゃないというか、心が健全じゃないのは、例えどんな趣味の人間にだって、私はこう感じていたと思う。例えば彼の趣味が野球なんていう健全そうなものでも、そこで後輩をやたら嬲っていたりしたらやっぱり軽蔑しただろうし。そういう意味で、彼に不快感を抱く理由は単純な趣味のことじゃなくて......その、心根にだった。 いや、私は知っていたはずだ。実際大概の人間なんてこんなものなんだって。 しかし、直前に見たケースが悪すぎた。式見蛍とその周囲の面々は、稀に見る「いい人」だらけの世界だったから、すっかり、本来の世界の......人間の姿を忘れていた。 だからこそ、私は人を嫌悪していたはずだ。寄り添われたくなんてないと、思ったはずだ。 ......そして、私が何より悔しかったのは......。
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